非凡工房
こじんの恋
一途に人を想うという行為は素敵なものである。
たとえそれが他人から見てどれほど滑稽であったとしても。その誰もが個人の恋を否定することはできない。
彼女、S子もまた恋の魔力に取り付かれた女性の一人だ。
意中の彼、K太を見かけては胸をときめかせ、なんとか自分を視野に入れてもらおうと必死にアピールする。
しかしK太というと、全くそれに気づかずに男友達と談笑するか、はたまたS子とは別の女性とデートをする始末。
それもそのはずだ。S子はK太と友達でもなければ、会話をしたこともない。自分の存在すら、気づいてもらえていないのかもしれない。
「ああ、なんて神は非情なのかしら。私がいくら彼を想っていても、振り向いてくれる気配が無い。いっそこの口で想いのたけを伝えることができればどれほど楽なことか・・・・・・」
神に八つ当たりをする。
S子も心の奥では叶わぬ恋だとわかっている。自分とK太が結ばれることはないのだと。また、想いを伝えることはできないのだと。
それでも・・・・・・という気持ちがS子のK太への想いを一層強くするのだった。
「K太くん、最近ダルそうだね。どうかしたのかい?」
「うーん、ここ数日どうも肩が重くてね。日に日に悪化しているようなんだ」
「それはいけない。一度病院で診察を受けたらどうだろう」
「ああ、近いうちにそうするよ」
個人の恋を否定はできない。
だが、故人の恋となると・・・・・・。