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和尚さんの法話 『 廻向 』

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その家の家主さんが、大工さんだそうで自分で借家を建てたんですね。

その借家へ入った第一号の人で、或る新婚さんが入ったんです。
その奥さんだということが分かったんです。

それがどういう状況でと、その話しを聞いてみましたら、その奥さんという方は綺麗な方で、旧制の女学校時代ですね、女学校へ行っている頃から、その御主人が知っていて、卒業するのを待ち兼ねて結婚を申し込んだんです。

そして結婚をしたんですが、ところがその奥さんというのが、身体が弱かったんですね。

それで結婚はしたけど、だんだんと寝たり起きたりというような状態になってきて、そのうちご主人がだんだんと秋風が吹くようになってきたんですね。

それでその奥さんが、いつもその愚痴を近所の人や家主さんたちに言ってたというのです。

私は、主人と結婚をしたのは、実はこういうわけで、主人は私でなけりゃと、私はさほどどうということはなかったんだと。

ところが親がその結婚を勧めたんだと。何れ歳がきたら結婚するんだからと。

それくらい思われたら、ちと早いかもしれないけれども、それでいいではないか、相手も早くにと言ってくれてるんだからと。

と、なんとなく結婚をしたんだと。

ところが囚人は私でなけりゃと思うてくれたんなら、病気になったら余計に大事にしてくれないといかんのと違いますかと。それが本当の愛情でしょうと。

ところがあの主人は、あっちへこっちへと遊びに行ってばかりだと。

と言うて悔やんでた。
そして死んでしまった。

その奥さんですよと。
家主さんが言うていたけど、そんな主人だから後の弔いもしてないのと違いますかと。

葬式はその借家でしましたが、初七日にならんうちに何処かへ引っ越してしまったと。

家主さんが言ってたけど、そういえばあの家は曰くがあるようで、何人も替わってるんだと。

どの人もこの人も何か曰くがあるような感じですぐにその家を出てしまったと。

そこでですが、その家へ入ってくる人は何の恩も恨みも無いはずですよ。

ではなんで祟るんだと思いますでしょ。

それは祟るんじゃないんです。

なにも悪いことをしてないんですから。

会ったこともないんですから。

この話は、家を建ててから三十年後の話しになるそうです。

だからその間に何人もの人が替わってるわけです。

この話もそうですが、早くに死に分かれたら、再婚をしますね。

そうしますと、これも例外はいろいろありますけれども、後の奥さんに遠慮して、前の奥さんのことを心で思っていても今の奥さんに遠慮することがありますね。

和尚さんの檀家さんに、再婚した人がいて、或る日に主人が一人で来て法事をして欲しいと言うのです。誰の法事かと聞くと。

今の妻は再婚で、前の奥さんは死んでしまったんだと。

その前の奥さんの法事をしてほしいんだと。

今の奥さんにはちょっと言えないしねと。

この人はよく出来た人ですね。

この場合はいいのですが、しない場合もありますわね。

お嫁に行った娘だから、親元は嫁に行った先が勤めると思っているから何もしませんね。

死んだ奥さんは誰にもお勤めをして貰えない状態だったんですね。

ところが、あの世へいったらお経を貰わないと行くところへ行けないということですから。

先ほどの平八郎の話しと同じでね。

なんとかしてお経を貰えないかなと、そこへ住む縁もゆかりも無い他人さんに頼ってるんですね。

恨んでるのと違いますね。

ところがどうにかして気が付いて貰いたい。

気が付いてくれないかなと、するときにはマイナス面が現れるんですね。

今のように、何で病人が絶えないんだろうと。

いいことがあっても我々は気が付かないから。

そうですね、いいことは当たり前だと思うからね。

悪いと、なんでこうなるんだと思いますね。

病人さんが絶えない。ですけど、何れこの人たちに助けてもらいたいと思う人たちだから、とことんまで病気になるわけじゃないんです。

お医者にかかろうかなと思うてたら治るという程度なんですね。

それは気が付いて貰う為のことですから。

だからこれは、全くあかの他人さんですけれども、只その同じ家に住んだというそれだけのことだけど、然しながらその霊はそんなことで中ぶらりになって、あんたに頼ってるんです。

だからこれはもう勤めてあげたほういいと、和尚さんが言ったんです。

全くあかの他人だけれども、自分の先祖だと思うて、先ほどの七分の六の話しをして、先祖だと思うて丁寧に法事をしてあげなさいと。

そしたら、戒名は分からんし、名前も分かりませんと。
そりゃそうですわね。

それは構わないですよと。法事のための仮に付けた名前や戒名でもいいし、家に居てるその霊のためにという気持ちを込めて法事をすればそれで通じます。

それならば和尚さんに教えてもらって分かったことなので、和尚さんにお願いしますというので、和尚さんはその家へ行った。

そしてお勤めをして、これでこの家から病人さんが絶えたら、やあっぱりそうだったということになるし、霊も満足してくれたことになるし、今回法事をしたからそれでいいと思わないで、家に一人お客さんが居るんだと思うて、いつもお勤めをしてあげなさいということで、そしたら病人さんが絶えたんです。

これはやはりお経の功徳があったということになりますね。

それから何年かたって、ひょこっと近くまで来たのでと言って、訪ねてきたそうです。

それでまた以前の話しをして、それであの家を出たいと思うてますと。

それは何故かというと、借家の人が皆次々と家を建てて出て行くのに、私は未だにあの借家に住んでいますので、ちょっといい家へ移りたいと思うのに、ところが家を出られませんと。

近所の人が止めるんだそうです。

それは近所の人が止めるんじゃなくて、その霊が止めるんですよと。

霊が近所の人の口を借りて止めてくれと言わされてるんですね。

つまりその家の人が出てしまったら後の供養をしてもらえないから。

ちゃんと供養をしてもらったので、今度は守ってるんです。

これも廻向の功徳ですね。

こうして霊の供養をするということは、目的はそうですけど、知らず知らずに自分のことになってるんだということなんです。

七分の六が自分の功徳になってるんだということも参考にして頂きたいと思うのです。


だからお釈迦さんは、これは廻向とちょっと違うかもしれませんけれども、インドの国から国へと法を説いて廻りましたね。

すると或る地域が異常な干ばつでね、食に困るような国があったんですね。

そこへ行くということになったんです。

そしたらお弟子さんの阿難だったか誰だったか、世尊、今あの国は干ばつで国民は大変困ってますと。ひもじい思いをしています。

だからそこへ行ったら我々に供養をするのに非常に困るんと違いますかと。

そしたらお釈迦さんは、前世の不徳でそうなってるんだから、得を積まさないといかん、だからそういう所へ余計に行かんならんと。