和尚さんの法話 『 廻向 』
初めて来た人でしたので、檀家さんだったら多少分かるのでしょうけどね。
だから和尚さんが見えたことと、その人の言うことと合ってますね。
こうと違うかなと思ったら、そのとうり。
それじゃあ具合が悪いですよと。
それで和尚さんは、其の人にも七分の六の話しをしたそうです。
してあげたら自分の為にも成るんですよと。
自分の生活が困ってるんだったら余計にした方が宜しいと。
そんなことを言ったって兄貴はしませんわいと、言うんですね。
お兄さんがしないなら貴方がしなさいと。
それでその人は帰ったんですね。
それから半年ほどたって、また其の人が来たそうです。
するとまたその先祖が大きく出てきたそうです。
これはきっとなにかしてあると思ったんですね。
それで聞いてみたんですね。
其の後、ご先祖のことをどうしてるんですかと。
一応、和尚さんに言われたので、兄貴に言いましたと。
そんなもん出来ないと。
それじゃ私がやってもいいですかというと、それはおまえがやってくれたら結構だと。
そう言うので、和尚さんのところへきて、代々の寺も疎遠になっていて行き難かったけども、月に一遍、家へ来てもらってますと。
前に来たときに和尚さんが、せめて月に一遍でもお勤めをしなさいと言ってたんですね。
月に一遍のお経というのは短いですね。法事となると長いですが。
それでも半年続けば六回です。それでも前と大きく違うんですよ。
だから先祖は、七分の一だけの功徳でそれですから、七分の六は如何に功徳があるかということですよ。
それから、和尚さんの檀家さんですが。小さい子供さんが死んだんですね。
それは和尚さんが住職になってすぐの頃だったそうです。
その子供のお通夜のときに和尚さんが話をしましたそうで、お通夜には多くの人が来てますね。
こうして人が亡くなられたら、ああもしてやりたかったのに、こうもしてやりたかったのに、もう死んでしまったら何もしてやれない。
こう思うでしょ。
とこおろがそうじゃないんです、死んでからでもいくらでもしてあげられるんです。
好きな物を供えてあげるのもそうですしね。
然しながら、死んだ人に一番大切なことはお経なんですよ。
お経の功徳をあの世へ送ってあげることが一番大事なんです。
それが精霊にとって一番助かることなんです。
好きな物を供えるのもいいのだけど、お経のほうがもうひとつ功徳があるんですよと。
お経を読んで、物を供えてあげたらそれで十分ですと。
そういう話をしたんですね。
その話しがその奥さんの胸に応えたんですね。
それでその話しをして、初七日にお勤めに行ったときに、拝んでたら、仏壇はそんなに大きくないそうですが、その仏壇の中に小さい阿弥陀様が見えたそうです。
それで和尚さんはお経を読みながら考えて、あっと思ったんですね。
これはあれから奥さんは、精霊のために何かしているに違いないと。
和尚さんの妄想でなければ、如来様が現れるということは、なにかそれに相応したことをしているに違いないと思ったんですね。
それでお勤めが済んでから。
ちょっと奥さんにお聞きしますが、此の子の為になにかしてるんですかと。
すると奥さんは、先日和尚さんが、死んだら何もしてやれないんじゃない、死んでからでもお経が一番の功徳になるとおっしゃったので、此の子の為にと思うて、一日十遍、必ず阿弥陀経を挙げていますと。
それの証ですね。
今までその奥さんはお経なんて称えたこともなかったそうです。
これも廻向のひとつの証ですね。
それから、これも和尚さんが住職になった間も無い頃に、或るお客さんが来まして。
その話しというのは、今の借家へ入って三年たつんだけれども、どうも考えてみると、今まで達者だったのに、今の家へ入ってから皆が病気すると。
四、五人の家族が交代で病気になるというのです。
大事にはならんのだけれども、医者に診てもらわんならんかなと、思っていると治ってしまう。
それでやれやれと思うたら、次にまた誰かが病気になると。
皆が交代で病気になるんですと。
はじめは気が付かなかったけど、おかしいなと思うようになったんですね。
それで近所にそれを話たら、それは先祖が迷うてるのと違うかと。家相が悪いんと違いますかと。一遍何処かで視てもわいなさいと言われたんですね。
其の人は、実は借家に入った、間も無しに和尚さんの寺へ来たことがあるそうで、和尚さんは来たことがある人だというのを知っていたわけです。
今回はその三年後に来たわけです。
そして、こういうわけで病人が絶えないんだと。
人に聞いたら、ああだこうだと言われるので、三年前のことを思い出して、まら和尚さんのところへ来ましたと。
そうしましたら、その奥さんの側に綺麗な女性の霊が出てくるのです。
そして奥さんの側にこんな人が出てきましたがなと。
顔立ちはこうで、年頃はこうで、性格はおそらくはこんなんでと。
そしたらその人は、三年前に来たときも、和尚さんは同じことを言ったというのです。
和尚さんはその三年前に言ったことを忘れていたそうです。
同じ霊が出てきたら同じことを言いますわね。
そのときなにか言いましたかと、和尚さんが聞きますと。
親戚にそう言う人が居ないかと聞いたそうですが、分からないと。
そしてお宅に年寄りはいますかと聞いたと。
七十代の姑さんがいますと。
年寄りのほうが、若い人よりも古いことをよく知ってるし、一遍そのお母さんに聞いてごらんなさいと。
それで家へ帰って聞いたんですね。
家で姑さんに聞いたけれども、家にそんな先祖はいないと。
それで結局、そのままになっていたわけです。
なんとかその人のことが分かりませんかと、和尚さんに聞きにきたんですね。
それで和尚さんが一所懸命に考えて、視てみると、なるほどこの霊は先祖ではないなと、これはあかの他人だなと思ったんですね。
それでお宅の前に住んでいた人はどうでしたかと聞いたんです。
これは皆さん参考に、新しい家に入りますね。新築は別としてね。
古家を買ったとか、借家とかね。
其の時に、前に住んでいた人があるのだから、その前に住んでいた人が、発展的にその家を出ていったのならいいのですよ。
家が狭くなって、もっと大きい家へということで出て行ったとかね。
そういう発展して出て行った家はいいんですよ。
ところが、どうもこの家に入ってから具合が悪いということで、出て行くとその家は具合が悪い。
その前の人もそうらしいというのです。近所の人からそう聞いてると。
その前はどうか分からない。
前の人と、その前の人とどうもよくない状態で出て行ったと。
これは、この家で死んだ昔の人ではないかなと。
その家の近所の昔から住んでる人に聞くなり、それから家主さんに聞くなりして、和尚さんが言う、三年前と今回の同じ人、そういう人がその家で死んでいないかということを聞いて下さいと、こう言うて、その日は帰った。
それから後日その人が来まして、和尚さん、分かりましたと言うて来たんです。
作品名:和尚さんの法話 『 廻向 』 作家名:みわ