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春咲シーナ
春咲シーナ
novelistID. 47967
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九尾の狐の夏花火

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「…何年も?」
 掠れた声で孔雀が言った。


お願い、判って。あたしを受け止めてよ。



 しばらく、無言だった。
「何年も憑かれてる。」
「そか。」
 また無言の時間が流れ、翡翠は心が苦しくて涙が出そうになった。



 ごめん、じゃあ、またね。


そう言って立ち上がろうとした時、握っていた手が離され、翡翠は驚愕に目を見開いた。
 孔雀はしっかりと翡翠を抱きしめていた。
「そんぐらいで嫌いになるわけないじゃん。今まで、よく頑張ったな。」
 翡翠は、嬉しさと驚きで涙と震えが止まらなかった。
「いい…のか?こんな、あたしで。もっといい、女いるだろ。他探せよ。」
 嗚咽交じりで言うと頭を撫でられた。
「俺は翡翠が好きだ。公園で見た時から。なんか、ほっとけなくて。」
「孔雀…!」
 翡翠は泣いた。呪われてから初めて人前で見せる涙だった。
「大丈夫。大丈夫。一緒に戦おう。」
「…うん。」
 しばらく泣くと気持ちが落ち着き、涙を拭った。化粧は大して落ちてないようだ。
「今日はあとちょっと回ろうか。気持ち、落ち着かせた方がいいだろ?」
「おう。」
 翡翠は頷くと立ち上がった。
 手は繋いだままで。
「翡翠ちゃんの手、柔らかいよね。」
「おい、いくらなんでもそれはセクハラだろ。孔雀の手は大きいな、羨ましい。」
 顔を赤くしながら翡翠は言うと、おずおずと口を開いた。
「それと、あたしのこと、呼び捨てで良いよ。孔雀になら許してやんよ。」
「翡翠ちゃん?」
「良いから、下の名前で呼べ!あと、あたしにはあんまり逆らうなよ?」
 それを聞いて大爆笑する孔雀を睨みつける。
「笑うなよ!」
「ごめん、なんか翡翠ちゃんみたいな子、周りに居ないし。」
「翡翠!」
「はいはい、翡翠な、判ってるって。」
 そういうと、孔雀は翡翠の頭を撫でた。
 むっとしながらも、翡翠はそれを受け止める。
 男装女子の翡翠だって、昔は少女マンガのような恋愛に憧れたこともあったのだ。
「でも、このネックレス良いよなぁ、蛟さん、だっけ?良いセンスしてるよな。」
「蛟さんは俺のバンドの衣装も決めてくれるんだよ。」
「へぇ。今度、あたしも服買いたいな。」
「じゃ、また来る?」
「…いいとも。」
「よっしゃ、これでまた翡翠に逢えるな!」
 無邪気な笑顔でガッツポーズをする孔雀を見て、翡翠は苦笑した。
「あ、そうだ、これあげる。」
 孔雀は、バックから白い線が入った赤い天然石のブレスレットを出すと、翡翠に渡した。
「これ?」
「魔除けにいいんだってさ。翡翠、憑かれてるなら、これ効くと思う。もともと、あげようと思てたし。」
「…いいの?」
「当たり前。」
「…ありがと。」
 翡翠は素直に感謝が出来る自分に驚いた。
「今、ありがとうって言った!?」
 それは孔雀もらしく、驚いていた。
「モスバーガーおごってやった時は偉そうにしてたのに?」
「うっさい!」
 翡翠は顔を真っ赤にして俯いた。
「また…遊んでくれるか?」
 孔雀の手をぎゅっと掴んで聞いた。
「当たり前。今度は、待ち合わせ時間決めとこうな。」
「あ、そうだったな。孔雀、炎天下の中で1時間、待ったんだもんな。」
「死ぬかと思った。」
「…悪い。」
「でも、コーラが超美味かった。」
「良かったじゃねえか。」
 翡翠は大爆笑した。普通1時間も待たされたら怒ってコーラがどうのこうの言っていられないだろう。
「今度、待ち合わせ、メールで教えようよ。」
「あー、それ便利だな。」
 翡翠は、ヴィヴィアンのバックを開けると、最近機種変更をしたばかりの水色のスマートホンを取り出した。
「綺麗なスマホだね…俺は、ボロボロだよ。」
 孔雀がポケットから出したのは傷だけの黒いスマートホンを出した。
「…どうしてこうなった。」
「落とし過ぎ…かな。」
 苦笑する孔雀にメールアドレスと電話番号を交換しながら翡翠はため息をついた。
「ストラップ付いてねえじゃん、百均のでも良いからつけとけよ。」
「じゃあ、今度買っとく。」
「蛟さんに選んでもらえ。」
「やだよ、翡翠が選んでよ。」
「やだよ、ってなんだよ!蛟さんに失礼だろうが。」
「だって、一番好きな子に選んでもらいたいじゃん?」
「…いつまでもあたしが照れるなんて思うな。」
 翡翠は孔雀を睨みつけたが、顔は赤かった。
「それもまた今度ね。もう、時間遅いから。」
 買ったばかりの赤いGショックで時間を見ると、7時近かった。
「じゃあ、帰るか。」
「そだな。」
 もう時間が遅いといった割には、孔雀はしゅんと、しょげていた。
「…大丈夫だよ、また逢ってやんよ。」
 孔雀の髪型のセットが崩れるほど、ぐしゃぐしゃと撫でてやった。
「家まで送ろうか?」
「いや、いい。あたしなんか襲うやついねえって。」
「翡翠は綺麗だから昨日みたいに襲われるかもよ?」
「…でもなぁ。」
「家の前までだけだから。別に普通に送ってくだけだから。」
「じゃあ、変態が来たら身代わりってことで。」
「ひどいな。」
 苦笑しながら、孔雀は繋ぐ手に力を込めた。



「ここがあたしの家。」
 大型ショッピングセンターから、手を繋ぎながら翡翠と孔雀は帰って来た。
「豪華じゃん。」
 3階部分を見上げながら孔雀が言った。
「豪華じゃねえって。引っ越してくるとき安かったんだよ。」
「ふうん。」
 孔雀は、翡翠の頭を撫でながら言った。
「なぁ、もし、その憑かれてるやつが出てきたら絶対俺に連絡寄こせよ?何時でもいいからな。遠慮はするな。」
「…おう、判った。孔雀、頼もしいな。」
「当たり前だろ。じゃ、おやすみ。」
 孔雀は手を離すと、翡翠の頭を撫で、去って行った。
「おやすみ。」
 自然と笑みが浮かぶ。
 窓から見える室内の鏡から瑠璃が冷たい視線で翡翠を見つめているとも知らずに。







第四章
「ただいまー。」
 靴を脱ぎ、スリッパを履くと、キッチンへと向かった。
「おかえりなさい、意外に早かったわね、お父さんは遅くなるみたいよ。」
「ふうん。」
 一生帰って来なければいいのに。
「今日は、外食でもしようかと思っているのよ。お父さん居ないなんて滅多にないでしょ?」
「そうだね、どっか行きたいところある?」
「とんかつが食べたいわ。ほら、家だと油ものは怖くて作れないじゃない?」
「じゃあ、ちょっと遠いけど、とんかつ屋さん行こうか。ちょっと気になってたんだ。」
「そうしましょ。じゃあ、行きましょうか。」
「うん。」
 翡翠は洗面所で軽く化粧直しをした。目の下でアイラインが滲んでいる。綿棒に水をつけてそれを拭き取る。そして、ファンデーションを塗る。
 それが一通り終わると、鏡に映る自分が滲んで怒りの形相の瑠璃が映った。
「なんやの、あの男は。好いてしまったんか?お揃いの首飾りなんかつけて、滑稽やわあ。」
 口元を着物で隠しながら、瑠璃が嘲笑する。
 いつもだったら、激怒してしまう翡翠だったが、今日は違う。
 孔雀が、いる。
「瑠璃は好きな男とか出来たことねえのかよ。哀れだな。ま、そんな性格じゃ相手にもしてもらえないだろ。」
「な…っ!」
 今までとは形勢逆転だ。嘲笑する翡翠、悔しがる瑠璃。
作品名:九尾の狐の夏花火 作家名:春咲シーナ