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春咲シーナ
春咲シーナ
novelistID. 47967
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九尾の狐の夏花火

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「そんなこと言ってもこの呪いは…。」
「もう何回も聞いたよ。『この呪いは解けない』、だろ?悔しがってんじゃねえよ、自分の不幸は自分が作るんだよ。瑠璃、これからはお前には負けない。孔雀と一緒に戦っていくからな。」「…ふん。いっちょ前に強がりおって。それもどこまで続くんかな?」
 瑠璃は背中を向けると、消えて行った。
「翡翠、どうしたの?誰かと電話?」
 玄関から不安そうな母親の声が聞こえた。
「大丈夫。ちょっと雑魚と話しただけだから。」
 そう言って玄関に向かった。


「ここかしら?」
「多分ここでしょ。」
 母親と二人で地図を見ながら歩くと、目的のとんかつ屋にたどり着いた。
 外装は、和風だった。少し高級感も漂っている。

「ちょっと高そうねえ…。」
「いいよ、ちょっとなら出せるから。」
「じゃあ、入ろうかしら。」
 おずおずと言った感じで暖簾をくぐる。
「いらっしゃいませ!」
 中は個室がいくつかあって、それなりに賑わってるようだ。
 入ってすぐに池があり、紅色や金色の鯉が優雅に泳いでいた。
「お二人様ですか?」
「はい。」
「こちらへどうぞ。」
 若い女性の店員さんが一番奥の個室へ案内してくれた。
「ご注文はタッチパネル式になっております。判らなければ、横のボタンでお呼びくださいませ。」
 おしぼりとお茶を置くとお辞儀をして店員さんは去って行った。
「案外、リーズナブルね。」
 機械に強い母親はすでにタッチパネルでメニューを見ていた。
「あたし、トンテキがいい。」
「じゃあ、お母さんはとんかつにしようかしら。」
 タッチパネルで注文すると、母親が翡翠の時計に気づいた。
「あら、その時計素敵ね。翡翠に似合うわ。」
「ああ、これ?いいでしょ。安かったんだ。」
「今日はそれを買いに行ったの?」
「うん…まぁね。」
 なんとなく孔雀と行ったことは言い出しにくい。
「お友達と行くって言っていたわよね?新しいお友達?」
 これも、女の勘だろうか、ズバズバと当てていく。
 いろいろ質問を繰り返される度に孔雀のことがばれてしまった。
「ふうん、ついに翡翠にも彼氏が出来たのね。」
「男のわりには結構いいやつだよ。ネックレス、お揃いなんだ。」
「綺麗ね。これから楽しいこと、いっぱいあるから思う存分楽しむのよ?」
 そう言って笑う母親はいつもより生き生きとして見えた。女は何歳になっても恋バナで盛りあがれるのだ。
「今度は洋服見てくる。高いのねだっちゃおうかな。」
「あんまり困らせないようにしなさいね、今度デートする時はご飯、ちゃんとしたとこで食べるのよ?ちょっとなら援助するから。」
「いいよ、あたしと孔雀にはモスバーガーで十分。」
 孔雀、と言った名前を聞いて母親が、目を見開いた。
「その子って、もしかして、一人暮らししてない?」
「してるよ。バンドとバイトで忙しいって。」
「その子よ、この間のメロン持ってきたの。金髪が綺麗だったわ。」
「マジかよ…あのメロン超美味かったから…高いのかな。」
「これじゃあ、翡翠が孔雀君に奢ることになりそうね。」
「やだよ、貢ぐみたいじゃん!」
 二人で大笑いをしていると、戸が開き、トンテキととんかつが運ばれてきた。
「じゃ、食べましょうか。」



「お腹いっぱいだー…もう食べれない。」
「そうね…とんかつ、美味しかったわ。今度、孔雀君をここに連れてきたらいいじゃない?」
「それは言える。ここ、良いとこだね。」
 個室内も圧迫感はなく、窓もあり、外の中庭には鯉が優雅に泳いでいた。
「また、来ようね、お母さんと二人で。」
「お父さんは?」
「親父はいい。」
 翡翠は、ムッとして眉根を寄せた。
「お母さん、親父に甘すぎだよ、いい加減働かせなよ。」
「いいのよ、お父さんはゆっくりしてて。お母さん、もう一個パート増やそうと思うの。そうしたら、結構生活楽になるから。」
 やはり、これは共依存だ。
 昔、興味本位で精神科が書いた書籍で調べた時にたまたま見つけた症状だ。
「お母さん、頑張るから。だから、大丈夫よ。」



「だってさ。どう思う?」
 次の日、孔雀にメールをして公園で落ちあい、ブランコに座りながら聞いた。
 手元に、コンビニで買った棒アイスを持った二人は溶けるアイスに苦戦しながら喋っていた。
「親父さんが働かないのは困るな。俺の親父は真逆だったけど。『女は家、男は職場』みたいな。俺が中学出たら働かされたし。高校行きたかったなー。」
「高校中退のあたしから言わせたら高校は地獄だったな。部活だけ行ってたら、いつの間にか除籍されてた。」
「翡翠は、何部だった?」
「なんか運動部だった。走ったり、泳いだり、ボール使ったり、筋トレしたり。筋トレは楽しかったな。腹筋割れたし。」
「え、翡翠腹筋割れてんの?」
 孔雀が驚いて振り向いた。
「割れてるよ。孔雀は?」
「俺は、割れてない。」
「勝った!」
「負けたかー…でも、彼女に腹筋関係で負ける彼氏なんかいるのか?」
「多分、孔雀だけだな。」
 自分の棒アイスを食べ終わった翡翠は、孔雀からアイスを奪った。
「あ、俺の分!」
「筋トレしたまえよ、孔雀君。はい、腕立て三十回!終わるまでにアイス食い終わってやる。間に合うかな?」
「鬼畜だな、お前!」
 そう言いつつも孔雀はブランコから降りると腕立てを始めた。
 やはり、男だけあって、翡翠より遥かに軽々と腕立てを終わらせた。
「はい、お疲れー。」
「アイス、ほとんどねえじゃん!」
 半分になったアイスを受け取ると、孔雀は口を尖らせた。
「間接キスかよ。」
「!食べるな!あたしが全部もらう!」
 翡翠は孔雀のアイスをひったくると、一気に食べた。
「馬鹿、なんで食っちまうんだよ!」
「男と恥ずかしくて間接キスなんか出来ねえって!」
「彼氏でも?」
「まだそこまで意識出来ないんです、すみませんね!」
 顔を赤くする翡翠を孔雀はにっこり笑って見つめていた。
「…なんだよ。」

作品名:九尾の狐の夏花火 作家名:春咲シーナ