入道雲と白い月
左近は雛を水場へと連れて行った。今時は珍しい、ポンプ式の井戸から水を汲むと、ひしゃくで一杯すくって、飲ませてくれた。
「家に着く前にへたばっちゃまずいからな。気をつけて帰れよ」
「はい。ごちそうさまでした」
ぺこり、と頭を下げ、雛は神社に背を向ける。二、三歩進んでから、思い出したように足を止め、後ろを振り返った。
「あの、また来てもいい?」
「どうぞ。別に入場制限するような場所じゃあないから」
「――またこれるかな?」
雛は首をかしげた。気の向くままに歩いてきたので、正確な道をまた辿れるかどうか、不安になったのだ。そう口にすると、左近もわずかに眉を寄せる。
「一人で帰れるか? なんなら送っていこうか」
言いながら、すでに左近はほうきを片づけ始めていた。
「え、あの、うーん・・・・・・」
戸惑いつつも、そう言って心配されると、帰り道も心もとない気がしてきた。少し迷ったが、結局、戻ってきた左近に、潔く頭を下げることにした。
「すいません。山を下りるまで、送ってください」
「おう。任せろ」
こうして二人は、連れ立って山を下りていくことになった。
山の木々に、蝉の声が反射している。今日もまだまだ暑くなりそうだった。