和尚さんの法話 『 来世の法話 』
て名前があわってきたわけですが、その一番最初に来たとき、
その人の後ろに、武士の霊が出てきたんです。
「武士の霊」
その武士が、真っ暗な部屋で死んでるんですね。
真っ暗な倉か、牢か、そういうところで死んだ姿に見えた
そうです。
それがまことに残念で口惜しやということで、この世に執
念を残している。
そして死んだ。というような感じなんですね。
そんな用件で来たんじゃないんですが、その用件は忘れて
しまったそうですがそのことはよく覚えているんですね。
用件が済んだので、ちょっとお伺いしますがと、お宅のお
家は、先祖を辿っていけば武士と違いますかと聞いたんで
すね。
其の人は、お嫁に来た奥さんですから分からんのですね。
今あなたの後ろに、こういう武士の霊が出ていますと。
この武士は、非常にこの世に執念を残して、残念な思いを
残して死んだように思う。
武士の先祖というのは、武士のことだから一人や二人は、
残念無念で死んだ人もあって当然でしょうけれども、そん
なことを証明も出来ることは無いかもしれんけれども、こ
れはもうおたくの後ろへ出てるのでこれはもう先祖やと思
います。
だから、どうせ分からんことでしょうけれども、和尚さん
に言われた先祖があると思うて、武士の霊の冥福を祈って
あげなさい。
名前もなにも分からんでよろしいから、言われた其の人に
という気持ちで以ってしてあげたら、其の人に通じるから
と言ったんですね。
その日はそれで帰った。
そして二三日たったらまた其の人が来たんですね。
そして先日和尚さんがおっしゃった、あの武士の霊が分か
りました。
先日は、あの話しを半信半疑で聞いていました。
そんなことがあるのかなと。
家へ帰って、姑さんにその話しをしましたら、姑さんが、
すぐに仏壇へ行って過去帳を持ってきて、過去帳を繰って、
この人やなと。
確かに武士だったんですね。
その武士ですが、紋が見えたんですね。
浅間さんの紋だったような。鷹の羽の紋だったそうです。
その紋のことも言ったそうで、お宅の紋はこんな紋と違い
ますかと。
するとそうですと。
紋は認めたけれども、今の話しは半信半疑だったんですね。
ところがその姑さんがこの人だと言って、初めてその武士
の話しを姑さんから聞いたんです。
この先祖は、今から何代前の先祖で、二条城に仕えていた
んです。
その頃に宿直があって、先祖が宿直の晩に、城に泥棒が入
った。そして大切なものを盗られたんです。
それで、何のための当番かというので責任をとれというこ
とになる。
責任を問われるのはそうですが、そこへ以って、お前じゃ
ないかと。
お前が誰かと結託してお前が盗ったんじゃないかという嫌
疑がかかったというのです。
泥棒に盗られたという責めは受けますけど、私は盗ってお
りませんと。
そう言うたけど、それがなかなか通らんのですね。
無実の罪ですね。
お前でないなら犯人は他にあるはずだ。
その犯人が出るまで入牢を申しつける。
ということで牢へ入れられた。
ところが泥棒は何時見つかるか分かりませんわね。
結局は、どれ位かたったんでしょうが、なかなか見つから
ん。
そしていよいよ嫌疑が濃厚になってくるんですね。
そこでその先祖が牢の中で、泥棒に入られた責めは受けま
すが私が盗ったんじゃないと言って、舌を噛んで死んだ。
そういうことを書いてあったそうです。
その話しを聞くまでは、半信半疑で聞いていましたけど、
そのとうりだったと、残念無念で死んだ武士の先祖があり
ましたと。
それで名前が分かったんです。
それが過去帳にあったから、和尚さんが言うたことが合っ
てたという証拠になったわけです。
それからまた別の話しですが、和尚さんの寺の檀家さんな
んですが、そこで拝んでいると、子供の霊が出てくるんで
す。
毎月月参りするたびに、子供の霊が出てくるので、前に言
ったことを忘れてまた言うわけです。
檀家さんは、もうこれで三回目だというわけですね。
それだけ言うてるんだったら、和尚さんは言ったことを忘
れて言うてるわけだから、霊はあるに違いないよと。
そこまで言われると檀家さんも気になってきたんですね。
それで調べたけど分からないんですね。
子供らしい戒名がないわけです。
家に無いので、和尚さんのお寺で調べてほしいということ
になった。
それで和尚さんは、寺で過去帳を繰ってみると、今の頭首
のお爺さん代に、他から今の住所に来て、そして和尚さん
の檀家になってるんです。
お爺さんが死に、お父さんが死に、お母さんが死に、その
葬式は和尚さんが行った。
それは過去帳にあるから分かるけど、その前が分からない
んですね。
それは前の寺へ行って調べてみないと分からないわけです。
それで調べに行った。
ところが死んだという子供が無い。
それでもう分からずになってしまったんですね。
それから何年かたって、或るときに、仏壇がだいぶ古いの
で、洗いたいのでお性根を抜いて欲しいということになっ
て抜いた。
それから仏壇の中のものを全部出したわけです。
すると引き出しの一番奥の隅に、門徒さんの繰り出しとい
うのがありますね、浄土だと大きい位牌を使いますけど、
門徒さんは小さい板のようなものを入れて戒名を書きます
ね。それが一枚出てきたんです。
その板に、お爺さんの名前が次郎衛門というのですが、次
郎衛門、長男何某何歳。そういう位牌らしきものが出てき
たんです。
次郎衛門の長男と書いてあるのだから、これはお爺さんの
子供だなと。
お爺さんもお父さんも死んでるので誰も分からないわけで
すが、おぼろに覚えてるのが、小さい時分に親たちが話し
ていたことが、ほっと浮かんできたんですね。
それが、お爺さんが、若い時にロマンスがあって、結婚出
来ずに別れてるんです。
ということをおぼろに思い出してきたというのです。
そのときの子供だということが分かったんですね。
ところが過去帳に載っていないということは、子供まで出
来たけど結婚は出来なかった。
子供はお母さんの家へ行ってるわけで、それで別れた。
そして向こうで死んでるわけです。
葬式は当然、母親の寺でやってるはずです。
だから檀家の前の寺へ行って調べても無いのは当たり前で
す。
ところが檀家さんのお爺さんが、自分の子供が死んだとい
うのを聞いて、戒名を書いて、自分の心で拝んでたんだな
と、こういうことです。
戒名が出てきたから、和尚さんの言うことが証明出来たけ
ど、その一枚が出てこなければ証明のしようが無かったわ
けです。
出てきたので、男の子だし、年格好も合ってるし、和尚さ
んのいう子供だなと分かったわけです。
だからこれはもう霊魂が有るという証拠ですね。
「妖刀村正」
それから、同じような例ですが、和尚さんは知人の紹介で、
拝みに行ったんですね。
すると武士の霊が出てきた。
若い武士が出てきて、切腹をしてるんですね。
そしてもうひとつ、水子の霊が出た。
水子をお地蔵さんが抱いてるんです。
それでお宅の先祖は武士ですかと聞いたら、はい、武士で
すと。
若い武士で、切腹をして死んだ武士がありますかと聞いた。
作品名:和尚さんの法話 『 来世の法話 』 作家名:みわ