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和尚さんの法話 『 世間と出世間 』

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奥さんは御者に、主人はお釈迦様にお会いすることはでき
ましたかと聞いた。
仏様は法を説いて、そしてそれによって主人は忽ちにして
法眼を得、覚りを開いたかと、御者に聞いたんですね。
そうするとその御者が、主人から伝言を聞いてますから、
そのままを報告するわけです。
奥さんはその伝言を聞いて、大きな喜びとなる。
それならその馬車は貴方にあげましょう、お金も加えてあ
げましょうと。
大きなお金も一緒にあげるんですね。
ところがこの御者も賢いというのか、仏縁があるというの
か、そんな馬車もお金も要りませんといって辞退するんで
すね。
そしてこのまま貴方の御主人のところへ行って、御主人の
弟子にして頂きますと。
奥さんは、貴方はそういう気になったのですか、それなら
即座に主人の処へ行って弟子にしてもらいなさい。
貴方もまた近いうちには、きっと三明を得ることができる
でしょうと。
御者応えて曰く、ありがとうございます。私もそうさせて
頂きますと。
そしてその御者が帰って、仏門に入り坊さんに成るんです
ね。
そしてどれ位か年月がたって、奥さんが一人で住んでて、
子供が一人残ってますからね。
その娘もまた私も出家したいというのですね。
お父さんが出家して、御者までが出家したので、私も出家
したいと言うのですね。
優婆夷(母)はそれを止めなかった。
自分も何れは主人の後を追って、出家するつもりだった。
貴女はよく言ってくれたと。貴女が気にかかるからこうし
て在家に居ったけれども、貴女がその気なら私も近いうち
に尼さんに成るつもりですと。


「仏御前」

ここでこの話は終わりですが、以前にもお話ししたと思う
のですが、平家物語の妓王、白拍子ですね。清盛の目にと
まって、長い間寵愛されて、そこへ仏御前というのが現れ
て、そしてその仏御前に心を移してしまって、御前を捨て
てしまう。

妓王に妓女という妹が居って、そのお母さんも居ってその
三人がそれを逆縁として、出家しましょうということで、
嵯峨野の奥へ隠遁してしまいますね。
その仏御前も、自分もこうして今は結構だけれども、あの
妓王も今の自分と同じ日々を送って、結構だったけれども
隠遁してしまった。
自分も何れはそうなると。
それだったらそんな浮き世を見る前に、私も、というので
夜逃げして、そしてその嵯峨野の奥へ訪ねて行って、四人
が隠遁して後生を願うという筋になってますね。
これとよく似たお話しですね。

これはひとつのお話しで、もうひとつは、
「時にバラモン(また別のバラモンがあって)晨朝(じん
じょう)に牛を買い未だその値を購わざるに即ち其の牛を
失いて六日を見ず」
牛を朝早くに市場へいってその牛を買ったんですね。
ところがうっかり油断をしたすきに逃げてしまった。
まだお金を払っていない。
払っていないけど買うと約束をしてるからその代金を払う
ことになる。
それで毎日、毎日、牛を探してあっちへこっちへ牛の行方
を探して訪ねて回って、六日間。

「時にバラモン牛を求る為の故に精舎に至りて(お釈迦さ
んのいらっしゃる処へだんだんと近付いてきた)遥かに世
尊の一木の元に座禅し給えるも(大木の根元でお釈迦様が
泰然として座禅をしている)諸根清浄にしてその心寂然と
して成就し給える」
これはこのお経を書いた人の描写ですね、お釈迦さんの状
態をね。
諸根清浄というのは、泰然として、一切の煩悩が全部無く
なって涅槃寂滅の境地に入ってるわけです。如来様の境地
ですね。そういう所へ行き合わせたんですね。

「其の身金色にして光明艶笑たり見終りて即ち其の前に至
り」そのときお釈迦様はその定から戻るんですね。
そこでそのバラモンが、お釈迦さんにこう言った。
私は牛を求めて此処へ来たが、貴方は何を求めてこんな所
に座っているのかと。
たった一人でこのような寂しい森の中で座っていて何の楽
しみがあるのですかと聞いた。
するとお釈迦様はこう応えた。
或はなにかを損得した。或いは何かを失って損をしたと。
私はそんなことでちっとも心を乱すことはないと。
結局我々は心でものを思いますね。
こうしたら損だ、こうしたら得だと。
損得ばかりに心を奪われていたら自由な心を得られない。
欲に縛られてしまうんですね。
バラモン曰く、貴方は座って説教だけしてるから世間知ら
ずだ。それだけの生活しかしていないと。



「牛を探す者とお釈迦様」

経験が足りません、私が本当のことを言うてあげましょう
と。
日頃から思ってたんでしょうね。
説教だけして、托鉢も自分で稼いでるんじゃない、食べた
らいいようなものだけ貰いに廻ってる。あとは座ってると。
歯がゆかったんでしょうね。
それが胸にあったものだから、貴方は経験が足りませんか
ら、よく聞きなさいと。
私は早朝から牛を買いにいって、其の牛を買うことになっ
たが、まだお金を払っていないのにその牛が逃げてしまっ
た。
その牛を探して六日間、ここまで居って来たんだ。貴女に
はその苦労が無いでしょう。
胡麻を畑にまいて、畑は雑草が生えますね。するとその雑
草のほうが勢いが強くて、胡麻のほうが弱ってしまっても
のに成らん。枯らしてしまうと。
そういう心配をせんならんが、貴方にはその心配が無い。
だから安閑としていられるんだと。
田んぼに稲を植えると、日照りが続き水に困る。
稲が枯れてしまう。
これはもう大変な心配だと。
貴方はそんな心配はしたことが無いでしょう。
安閑としてるから、そんな処へ座っていられるんだと。
七人の娘を持って、ようよう嫁がせたけど、皆主人に死
なれてしまった。
そして皆それぞれ子供を一人残された。
その子供を連れて皆、家へ帰って来た。
これは大変なことですよ。
貴女はそんな経験が無いでしょう。
だから安閑としていたれるんだと。
七人の道楽息子が居るが、それぞれ借金ばかりしている。
他所へ行っては、お金を借りて飲み食いをして。お金を
貸したほうは、飲み食いをされてお金を払ってもらえな
かったら、それでは済みませんね。
朝から晩まで門を叩いて借金取りが来る。催促しに来る
人を債鬼と言いますね、鬼だと。
そんな苦労を貴方は知らんだろうと。
だから安閑としていられるんだと。
或は、蔵にたくさんの物を入れてあるが、それを虫が喰
いにくる。
その虫を防御しようとするが、それがなかなか上手くい
かない。
大変なことなんだと。
貴方はそんな苦労は知らないだろうというのですね。
或はその蔵の中に穀物とかいろんな食べ物を入れてある
が、ねずみがその穀物を喰いにくる。それを駆除する。
これがまた大変なんだと。貴方にはその苦労が無い。
要するに貴方は世間知らずで、世間の人の苦労をちっと
も経験していないから、そのように安閑としていられる
のでしょうけど、私はそうはいきませんと。
其れに対してお釈迦様はどう応えたかといいますと、そ
の言ったことをそのまま言って、私にはそのようなこと
をする必要が無い、だから安閑としていられるんだと、
こう言ったんですね。
牛を失い、六日も求めて彷徨うというが、私にはその必
要が無いと。だからこのように安穏なりと。