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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅲ  ~儚く美しい聖なる時代~

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第3章 降臨~Gabrielle~



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 公爵夫人は、石だらけの道を走る車の振動で正気づいた。身体は拘束され布袋に押し込められているらしい。口元には粘着テープが貼られており夫人は慎重に呼吸しながら状況を判断しようとしていた。車の前方から僅かに聞こえる異国の、複数の男達の言葉。脳裏にあの支店長の顔がよぎった。

 サダルメリク。そうか、私は判断を誤ったのだ。

 夫人は暗闇の中で自嘲した。



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「誘拐ですって!?」

 公爵夫人の秘書、ガブリエルはパニックに陥りそうになるのを直前で堪えた。彼女はエレベーターの前の床に倒れた巨体を見た瞬間、只事ではない状況が進行している事を理解した。しかし夫人に何が起こったのか唯一手掛かりを持っている警部は意識が途切れつつあり、素人目にも危険な状態であることが分かる。彼女は胸に黒い不安を抱えつつ立て続けに端末を操作して必要な機関全てに連絡を取って行った。
 その時、警備会社から派遣されていた男が大声でガブリエルの名前を呼んだ。別邸の北西に伸びるバンらしきタイヤの跡を見つけたと言う。


「確かなの?」

「一番新しい跡だ。賭けるしかないだろう」

 男はまるで飼い犬でも捜しに行くかのような軽口をたたき、ガブリエルはいささかの嫌悪感と不安を覚えた。部下達と共に車に乗り込もうとする背に思わず声をかける。

「必ず連れ戻して!」

 男は振り返った。

「生きたままかい?それとも死体でかい?」

 ガブリエルは呆気にとられ、そして男を睨み付けた。男は肩をすくめると踵を返し、掌をひらひらさせて車に乗り込む。
 残されたガブリエルは全身が冷えて行くのを感じた。彼等は公爵夫人の身辺の警護を任されていた警備会社の職員達だ。あの男は職員達のリーダーで東欧出身の元傭兵の経歴を持っていた。粗野な男だが、目の前でクライアントを誘拐されるという大失態をおかし内心では汚名挽回に躍起になっているだろう。しかし問題はそこではなく、彼等が公爵夫人個人ではなく企業側に雇われているという事であり、状況次第では夫人の命より企業の利益を優先せねばならないという事実だった。それ程公爵夫人には敵が多く孤立していた。

 土埃を残して猛スピードで走り去る車を見送りつつ、ガブリエルは更に不安をつのらせていった。