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リンドウノミチヤ
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novelistID. 46892
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KYRIE Ⅲ  ~儚く美しい聖なる時代~

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 ドラジェンは公爵夫人のオフィスにいた。警備会社を辞め公爵夫人専属のボディガードになる提案は、いくつかの条件と共に快諾された。雪の女王は相変わらず彫像のごとき冷ややかな美貌だったが、何故か儚げに見えた。
 ドラジェンの推測は当たっていた。夫人は彼女の元にもたらされた二件の事項について珍しく戸惑っていたのだ。ドラジェンを前にしつつ夫人は、榛統也があの誘拐騒動の渦中において命がけでサダルメリクから奪取したチップの事を思い出していた。義眼の中に隠されていたチップには公爵夫人の予想通り、数十年前に公爵が若きサダルメリクに送った手紙の画像が埋め込まれていた。そこにはいくつかの公爵家の破滅を招きかねない事柄の他に、ルイ・セドゥの極めて刹那的な感情の吐露が含まれていた。中身を読んで夫人は呆れ返った。 しかし一方で彼女は、夫であった公爵が愛人との繋がりを断ち切れずるずると深みにはまって行ったのは公爵自身の意思であり、情の部分だったのかとも思った。

 もう一つは病院からのある報告についてだった。夫人はその件については未だにどう判断して良いものか決めかねていた。彼女の身体はそれを受け容れる様には出来ていな筈だった。
 それでは、と夫人は他人事の様に考えた。自分はやはり特別な人間として資格を喪ってしまったのだ。曽祖父の意思を受け継ぎ必要ならば人の道を外れ血塗れの道を歩む事すら厭わなかった筈なのに。


「あいつが出所したら会ってやるんでしょう?」

 退室する前、ドラジェンは内心最も聞いてみたかった話題をふってみた。

 公爵夫人は否定し、初めて僅かに笑んでみせた。

「彼のような男と昔会った事があります」

夫人の白皙の横顔は月の光のように儚げだった。
 
「その少年はまるで太陽みたいに見える時がありました・・・あまりにも堂々としているので時々腹が立ったけどね。だから彼は、行きたい所に行きしたい事をすればいい。私はこれ以上関わるつもりはありません」

 それに、と彼女はふと思った。

(あの男が側にいると、私はいつも少しだけ悲しくなる)


 ドラジェンは呆れ顔で夫人を眺めていたが、やがて深い溜息をついた・・・なんて馬鹿な女なんだ。

「分からないんですか?」

 彼は言った。

「あいつは、太陽の下だろうが暗黒の中だろうが、貴女と堂々と歩いてみたいんですよ」