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リンドウノミチヤ
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KYRIE Ⅲ  ~儚く美しい聖なる時代~

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 公爵夫人の白皙の顔は血にまみれていた。彼女は床に転がりのたうち回る青年を眺めた。凄惨な光景を前にしても何ひとつ感情は動かなかったが、自分は魔にでも魅入られているのかもしれないと、ふと思った。そしてそんな自分自身をも冷ややかに見つめているもう一人の己を感じていた。

 正に一瞬の出来事だった。そして何者かが采配を降したかごとき明暗だった。青年が夫人に近づいたその刹那、足元に転がっていた物体に足を滑らせバランスを崩した。石の床に倒れていた夫人は自分の数十センチ先の闇で鈍い光を放つ物に向って無我夢中で跳躍した。中型のナイフ。夫人は獲物を確実に掌に納めると身体を反転させた。そして目の前の青年の、白い魚の様な喉にナイフの切っ先を躊躇なくさくりとたてたのだ。

 自分の所有物だったナイフを喉に刺したまま青年は唸り声を上げ続けている。
 階下から聞こえる男達の怒声。
 夫人は部屋を飛び出した。彼女の身体は野生の獣のごとき俊敏さで動き目の前の螺旋階段を駆け上がった。
 上へ、更に上へ。
 突如視界が広がり髪が外界の風に晒された。夫人は愕然として自らの足元の城壁とさらにその下に見える森を見た。息は切れ切れとなり、視界は霞んだ。 最早何処にも逃げ場はなかった。近づいて来る男達の足音を背に受けながら彼女は静かに地上を見下ろした。


「悪運つきたな・・・」



 彼女は自嘲し、躊躇いもせず足で地を蹴った。
 白く細い身体は一瞬宙に浮かんだ。