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黒崎つばき
黒崎つばき
novelistID. 47734
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戦場という名の場所

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 同じクラスの弥生ちゃん。少女より少し背の低い色黒の女の子だった。
 弥生ちゃんは気さくに話しかけてくれて、とても良い子なのだろうと少女は思った。
 そして初日の下校時間、もう一人少女は見知らぬ女の子と帰路を共にした。
 隣のクラスの小夜ちゃんだ。
 少女と弥生ちゃんより少し背の高い色白の女の子は、長い髪をおさげにした可愛らしい雰囲気のある女の子だった。
 弥生ちゃんと小夜ちゃんは家が一つ道路を挟んだ対面に位置しているらしかった。
 二人はかなり仲が良かった。まるで双子の様に寄り添い、友情を確かめ合う様に言葉を交わす。
 少女は、漠然的な疎外感を覚えた。この二人の間には入っていけない、いや、入れないと思わせる拒絶。
 その拒絶は、主に小夜ちゃんが発しているシグナルの様に思える。
 小夜ちゃんは、突如目の前に現れた少女を、仲間に加える気はなかったのだ。
 小夜ちゃんには弥生ちゃんがいれば十分だったから。
 その気持ちは分かる。お気に入りのモノを誰かと分け合うなんて、子供にしてみれば納得する訳がない。
 少女は、今までに感じ得た事のない感情を覚える。
 同じ時代、同じ空間に存在する間柄であっても、誰とでも手を取り合い絆を結べる訳ではない。
 無論そこには相性であったり、決して譲れない立ち位置が存在する事を、少女は初めて知った。
 そして本能的に悟る。この子とは友達になれないと。
 もし友と呼べる間柄になったとしても、それは所詮見かけ倒しで、内側ではドロドロとした黒い塊が渦巻いている。
 それは目を覆いたくなるほどにグロテスクな負の塊で、恐らく誰の中にも存在する人間の汚くてどうしようもない一部だ。
 時に、人にのみ託された理性という名の抑制は、余りにおぞましく、したたかに、それでいて悪辣に人の心を汚染する。
 勿論、それは心一つでどうとでも変化させる事は出来るのだろう。けれど幼い子供の時、それは余りに強大な力を持って表面上へと姿を現す。
 到底、子供の拙い心ではどうする事も出来ない暴力的な力となって負の感情を押し広げる。
 それに全てを飲まれた時、人は一体何になるのだろう。
 ふつふつと込み上げる黒い黒い塊は、この時から少しずつ少女の心を染め始めていたのかもしれない。
 そして新たな土地で始まる、目には見えない、けれど確実に自身の身に起きる戦いの火蓋が切って落とされた。
 転校から数日、少女はクラスに馴染み始めていた。弥生ちゃんとも仲好くなり、他のクラスメイトとも打ち解け始めていた。
 最初の日、握手を求めてきた女の子とは得に接点もなく、二年生へと進級したが、二年まではクラス替えがなく、同じメンバーで新たな学年へと移り変わる。
 そして小夜ちゃんの気配は常にあった。下校時、変わらず弥生ちゃんと小夜ちゃんとの三人であったし、家に帰ってからその後、近所で遊ぶにしてもこのメンバーが定着していた。
 学校近くまで足を伸ばせば他の友達とも会えたが、それ以外は常に三人で行動していた。
 小夜ちゃんにとって、少女は邪魔な存在。けれど少女にとっての小夜ちゃんの存在もまた、邪魔で執拗なモノであると認識され始めていた。
 そんな二人が常に弥生ちゃんを取り合い、いがみ合い、目に見えぬ戦いを繰り広げる。
 弥生ちゃんは、口に出した事はなかったけれど、きっと二人の不毛な戦いを感じとっていただろう。
 そしてまた、弥生ちゃんには弥生ちゃんなりの苦しみがあっただろう事を、少女は何年も経った後に理解する事になる。
 しかし、この時の少女には、弥生ちゃんのどっち付かずな対応、そして二人のいざこざに関知しないという態度が、時に恨めしくもあった。
 しかしそれは、日々エスカレートしていく小夜ちゃんとの溝といがみ合いからくるストレスの捌け口でもあったのかもしれない。
 学校内での生活はそれなりに楽しんでいた。得に誰といがみ合う事もなく平穏な時間を過ごしていた。
 同じクラスでもある弥生ちゃんは、クラスでも人気者で、休み時間には弥生ちゃんの周りに人だかりが出来る程だった。
 その時期、少女にはもう一人、仲良くしている友達がいた。
 少し背の低い小柄な美幸ちゃん。いつも笑顔で、とても明るい子だった。少し弥生ちゃんと似ている雰囲気がある。
 それは見た目ではなく内部の性格。絶対に人を嫌な気持ちにさせない、気の使えるそういった優しい部分だった。
 少女は、自分を傷つけない子が好きな保身的とも言える性格だったのかもしれない。
 そして無意識のうちにそういった子を友達に選んでいた様にも思える。
 少女の遊び相手は、専ら弥生ちゃんと小夜ちゃんではあったが、実はもう一人、家の近い同級生の女の子がいた。
 その子こそが少女の学生時代、その間に黒い影を落とす人物となっていく。
 クラスは隣だった。けれど家は誰よりも近かった優香ちゃん。
 学校が終わると、少女はよく優香ちゃんとも遊ぶようになっていた。
 優香ちゃんと遊ぶ時、それは決まって二人きりでだった。
 弥生ちゃんも小夜ちゃんも美幸ちゃんも、誰も優香ちゃんの存在は知らなかった様に思う。
 その為、少女は優香ちゃんと遊ぶ時、その他に誰も誘う事をしなかった。それは優香ちゃんも同じだった様だった。
 少女と優香ちゃんの関係は、一種秘密裏にさえ思える様なものでもあったかもしれない。

 中学年へ上がる際、とうとうクラス替えが行われた。
 少女の通う小学校は、一、二年生が一階、三、四年生が二階、五年生が三階、六年生が四階という風に分かれていて、三年生になると校舎の二階にクラスが移動する。
 少女は、優香ちゃんと同じクラスになりたかった。優香ちゃんとの関係は学校が終わった後、夕暮れの間だけのもので、学校では殆ど顔を合わせる事もなかったし、話しをする事も容易ではなかった。
 優香ちゃんと遊ぶのは楽しかったし、もっとずっと一緒にいたいとさえ思っていた。
 けれど三年生のクラス替え、校庭に張り出されたクラス名簿の中、少女と優香ちゃんは違うクラスに配置されていた。
 けれど少女はまた弥生ちゃんと美幸ちゃんと同じクラス。小夜ちゃんは隣のクラスで、またも同クラスにはならなかった。
 少女は密かに安堵する。恐らく、小夜ちゃんと同じクラスになれば平穏な日常は送れないだろうという危惧があったから。
 三年生、四年生の時期は楽しかった。この頃になると弥生ちゃんと美幸ちゃん、三人で行動する事が多く、その他にも親しい友人が数人出来ていた。
 放課後は学校に集まって缶蹴りや影踏みをして遊んでいた。低学年の時とは違い、団体で遊ぶ事も多くなっていた。
 それこそが小学校で学ぶ人の輪であり協調性だったのかもしれない。
 多くの人と触れあえば、それだけ多くの事が身につく。人は皆違った生き物で、その思考も性格も何もかもが違う。
 誰と話し、誰と遊び、誰かと一緒に学んでいく。そうして広がる世界は無限の希望に溢れてさえいる様に感じられる。
 けれど、勿論そこには相容れない壁もあり、衝突する事もある。だからこそ、人生は楽しいとも呼べるのかもしれない。
 とはいえ、平穏を好む少女にとって、人との争い事はなるべく避けて通りたい道でもあった。
作品名:戦場という名の場所 作家名:黒崎つばき