小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

夢と少女と旅日記 第3話-4

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

「まずひとつ。これだけは絶対に分かって欲しいということがあります。我々夢魔は人間を苦しめようだとか自分たちの欲望を満たすためだとか、そういった行動原理で動いてはいないということです」
「……そうなんでしょうね。なんとなく察しはついてましたよ」
「我々は人間を幸せにするために産まれてきました。つらい現実を忘れ、楽しい夢が見られるように、そのためにわたくしたちは死力を尽くしているんです」
 私はひとまず黙って話を聞くことにしました。
「ミス・ロレッタも重い病気によって競馬ができなくなるというつらい現実に襲われました。しかし、夢の世界ならば、そんな病気など気にする必要はないのです。
 彼女の場合は少し特殊なケースで、現実世界での病気の影響が夢の世界でも出ていたようですが……、それはともかくわたくしは彼女に幸せな最期を与えられたと自負しております。貴女も見たでしょう? 彼女の満足そうな笑顔を……」
「確かに彼女はきっと幸せだった。そのことについては否定しません。だけど、それでもやっぱりあなたたちは間違っています。人間が生きるべき世界は現実世界だけです。
 もしもロレッタさんが夢の世界に囚われず、現実世界で生きていれば、懸命な治療によって生き永らえたかもしれない。ちゃんと病気を治して、競馬に復帰することができたかもしれない。
 あなたはその可能性を潰したんです。現実世界で幸せになれる可能性を、未来を、希望を、勝手に潰したあなたを私は絶対に許さない」
「そうは言いますが、彼女の病気が治ることなど、まずあり得ない――」
「人間の限界を勝手に決め付けるんじゃない!!」
 思いの限りを籠めて、私は咆哮しました。被害妄想かもしれませんが、それをあいつは鼻で笑ったように見えました。
「では、貴女の“人間は現実世界で生きるべきだ”という考えは決め付けではないと?」
「……ええ、少なくとも夢の世界で掴んだ幸せなんて、所詮はまやかしでしかないです。そんなものが本当の幸せであるはずがない」
「ふむ。貴女の言うこともひょっとしたら一理あるのかもしれませんね。ですが、考えてみてください。我々は貴女にも幸せな夢を見せてあげることができるのですよ。
 そう、貴女の亡くなられたご両親を今すぐ目の前で蘇らせることだって――」
「――ッ! 勝手に人の心の中を覗かないでッ!!」
 話にならない。いや、最初からこちらの話を聞く気などないのでしょう。まあ、それはお互い様かもしれませんが、やはりどうしてもやり合う他ないようでした。
「おっと、これはこれは。わたくしとしたことが失礼を致しました。ですが、すぐに分かりますよ。つらい現実など忘れて夢の世界で生きることこそが人間の幸せであると」
「それは、あんたらの大将ナイトメアの考えでもあると理解していいんですね?」
「もちろんです。そして、我々はこの素晴らしき考えを実現させるために存在しています。全ては人間のためなのですよ」
「じゃあ、美少女旅商人のネル・パースが言っていたと伝えておいてください。ナイトメア、あんたは私がぶっ倒す、――ってね」
「はっはっは、了解致しました。それでは、また次の機会にお会い致しましょう――」
 そうして、奴は消えた。白い空間もいつの間にか消え、私たちは現実世界へと戻されました。そこにあったのは、ロレッタさんの死。
 その顔は確かに幸せそうだったけど、本当ならもっと別の可能性もあったかもしれません。少なくとも家族と一緒に最後の瞬間を過ごすことはできたはずです。
 なのに、何故私はロレッタさんの死を母親に伝えなければならないのか。私はただ悔しさを噛みしめる他なかったのでした。