(仮タイトル)
東雲さんの言葉が意外な物だったせいで少し固まってしまう。一月さんを東雲さんのところに連れてきてほしいということはまだ予想のうちだったのだが問題はもう1つのほう。
僕が彼女に信頼される。
人から信頼されるのなんてそう簡単に出来ることではない。友達だったり、あるいは先輩後輩だったりと言った仲の深い間柄でも信頼関係が成り立っているかと問われてイエスと自信を持って答えれる人は少ないだろう。
だというのにただ同じクラスというだけの僕が一月さんの信頼を得るなんていうのはそうとうに難しいことなんじゃないだろうか。
「あの、東雲さん、信頼されるって僕にはかなり難易度が高いことだと思うんですけど。ただ東雲さんのところに連れてくるだけじゃダメなんですか?」
「それで上手くいくのならそれでもいいんだけどね。考えてみてくれよ、普通の女子高生が大して仲良くもないクラスメイトに呼ばれて僕みたいな大人の男のところにホイホイ付いてくると思うかい。もし来たとしても本当の事を話してくれるとは限らないだろう?」
言われてみれば東雲さんの言う通りだ。一月さんがこの件に深く関係しているとしたら普通より強く警戒心を抱くだろうし、いきなり東雲さんのところに連れていくという方が難しいだろう。
「察してくれたかな?出来るだけ信頼されておいてくれたら話も聞きやすいし助かるけれど、最悪あまり警戒心を持たれない状態で僕のところに連れて来てくれればいいよ」
「そういうことなら、なんとか頑張ってきます」
「頼んだよ、これが僕の連絡先だから進展があったら連絡を入れてくれるかな?」
ジャケットの内ポケットからメモ帳を出すとさっと番号を書いて手渡す。
「分かりました」
「それほど急がなくてもいいけど、出来るだけ早くしてくれると助かるよ」
ー以上回想終了ー
ずいぶんと長い事回想をしていたおかげか気づけば校門前まで来ていた。
駐輪場に自転車を置いて教室へと向かう。まだ時間が早いおかげか校内の人数は少なくあまり人とすれ違うことなく教室前たどりつく。
扉を開けるとクラス中の生徒の視線が集まるもののすぐに外れる。みんな仲の良い人が来るのを待っているのだろう。
来たのが僕でごめんねと心の中で謝ってからクラス内を見渡しつつ自席へと向かう。
クラス内はだいたい生徒の3分の1くらいの人数がすでに登校してきているが、一月さんはまだ来ていないようだ。