(仮タイトル)
振り向いた先にいたのは見た目20代半ばくらいの男。高そうな黒いスーツを身に纏っているもののそのスーツはよれよれになっていて普通のサラリーマンという感じではない。
「まったく、派手に暴れたものだよ事情があるんだろうけどもう少しやり方があるだろうに」
言いつつ周りの状況を見ながら僕の方へと歩いてくる。
歩いてきてはいるのだが明らかにおかしな点があった。
その男は地面ではなく宙を歩いていたのだ。それほど高く浮かんでいるというわけではないが地面から5センチくらいは浮いているように見える。
なんだこいつ?浮いてるしこの場がお墓ってことも考慮すると幽霊か?
「失礼なことを考えるなぁ君は、俺はれっきとした人間だよ」
「か、勝手に僕の心を読むな!やっぱり人間じゃないなお前」
「心を読んだわけじゃないさ、顔を見れば考えていることくらいだいたい分かるよ」
たしかに僕はかなり訝しげな目でこの男のことを見ていたし、表情を隠そうともしていなかったので単純な僕の考えていたことくらい分かってしまうのかもしれない。
「そんなことよりこの状況はなんだい?どうやったかは知らないがやりすぎだろう。いったい何があったっていうんだい?」
面倒くさそうに頭をポリポリかきながら近寄って来てから僕の近くにあった墓石へと男は腰を掛ける。
「ちょっと待てこれは僕の仕業じゃない!冤罪だ!勝手に勘違いして決めつけるな、社会でも冤罪事件が問題になってるのを知らないのか」
「いや、確かに冤罪については最近ニュースなんかでもよく聞くけれど。しかし君からは確かに・・・」
この場の状況を見てもここまでほとんど表情を変えずに、どころか余裕の表情を見せていた男が初めて険しい表情になり僕をじっと見てくる。
険しい表情をしているので僕としては睨まれているようにしか感じない。
普通の高校生男子の僕としては年上の男に睨まれたら恐怖しか感じないのでやめていただきたいものだ。
僕の心境を察してくれたのか元の表情に戻ってくれた。
「はっはー、なるほどなるほど。そういうことか、すまなかったね私のちょっとした早とちりだったようだ」
何がなるほどで何がそういうことなのかまったく分からないが僕の無実は分かってもらえたようなので良しとしよう。
「しかしそれじゃあなぜ君はこんなところにいるんだい?おいらが見た限りこの場がこんな状態になってからそれほど時間はたっていないようだし、君がやったんじゃないにしても偶然ここに来たとは考えにくいんだが」
問われて僕は答える。普段からふらふら歩いていること。その延長でたまたまこの山に来たこと。そして一月珠希に会ったことと彼女の言った言葉を。