(仮タイトル)
まだ距離があったので顔は認識できなかったが服装からして僕と同じ高校の女生徒だということだと分かった。
お互いにそのまま歩を進めているので次第に相手の顔がはっきりと見えてくる。
目があったりしてしまうと気まずいのでさりげなく相手を見てみると、その人物が同じクラスの一月珠希(ひとつき たまき)だと分かる。
しかし、同じクラスで名前と顔を知っているからといって特別仲がいいわけでもない(彼女が僕のことを知っているかも怪しいところだしね・・・)ので、そのまま素通りしようと目を合わせないように歩く。
・・・が、なんだかものすごく視線を感じる。
耐えるんだ僕、後数メートル・・・四・三・二・一
「おぉ、君は確か同じクラスの・・・」
話しかけられてしまった、後数歩ですれ違えるという距離で話しかけられてしまった。
声を掛けてきたかと思いきやそこから続いて言葉を発することなく思案顔の彼女。
おそらく僕の名前を思い出そうとしているのだろう。
予想していたとはいえホントに名前を覚えられていないというのはショックだ、ここは彼女の記憶力に期待しようと思い彼女の次の言葉を待つ。
十秒ほど思案顔の彼女だったが名前を思い出してくれたのかこちらを直視する。
「少年はこんなところで何をしているんだい?」
思い出してくれてはいなかった、まぁクラス内で目立たない僕の名前を覚えてないのも仕方ないと納得し、それくらいの事で無視するのも申し訳ないので質問に答える。
「別に、ただの散歩だよ、そういう一月さんは?」
女の子が一人でこんな山道を歩いているというのも不思議だったのでつい聞いてしまった。
のだが、僕がいい終わるより早いか遅いかというタイミングで一月さんは手のひらを僕の顔の前に突き出してきた、つまり制止を求めるポーズをとる。
「私の事はたまちゃんと呼んでくださいな」
とのことだ。
「・・・そう、じゃあ僕はこれで」
なんだかまともな返答を貰える気がしなかったし特別彼女と話したいわけでもないので早々に別れを告げる、彼女もさほど僕と話したいわけでもない様子で
「うん、じゃあね少年」
とだけ言って歩を進め出した、それを確認して僕も彼女と反対方向、山の頂上へと歩き出した。
「あぁそうだ」
が、その出足は彼女の言葉によって止められてしまった。
「山を登るのはいいけど・・・頂上までは・・・行かない方がいいよ」
微妙な間を取りながらそんなことを言う彼女、その表情は怒っているような、悲しんでいるような、笑っているような、なんとも表現しにくい表情をしていた。
しかしそんな表情だったのも少しの間の事ですぐに普通の笑顔に戻ると僕に手を振ってから少し早足で山を下りていった。