Thin Ice
省吾が優しく聞いてくれるから、自分でも気が付かなかった胸の中のモヤモヤを
吐き出していた。
「何だか修平が最近変わったんだ。何処がってわからないけど、でもそれが嫌とか
そんなんじゃなくて・・・」
「寂しいか?」
「そう。さみしい?え?」
「置いてきぼりになったみたい?」
「省吾さん?」
驚いた。自分でも気が付かなかった思いを指摘されて。
最近感じていた違和感。ずっと隣にいた修平が離れて行く感じがしていたんだ。
「灯也、修平君が大人になったのに妬いてるのか?」
「修平が大人に?」
時々、修平は店に遊びに来たりしていて、省吾も可愛がっている。
だから最近の修平の変化にも気が付いていたんだろう。
「修平君本気で恋し始めたみたいだな。本人が気が付いてるかどうかは別にして。」
「まさか・・・」
他人なんかに全く興味が無い修平がありえない。
「俺はこんな商売してるから、わかるんだよ。」
「え?」それは俺の気持ち?それとも修平の気持ちが?
「灯也、寂しかったら寂しいって、言えば良いんだぞ。」
「寂しい?俺が?」
何だか視界がぼやけて、頬を何かがつたう。
涙?
俺泣いてるの?
何?この感情?
「わかんね〜」
省吾は泣いている俺を腕に抱いて、優しく背中を撫ぜていてくれる。
「我慢するな。そのまま泣けば良い。」
省吾の胸は温かく何処までも俺を包み込んでいく。
散々泣いて落ち着いたら、急に省吾に対して恥ずかしくなって
「何、何時まで俺にくっついてるんだ!離れろよ!」
と怒鳴っていた。省吾は一瞬驚いた顔をして、それからまた笑って
「はいはい。離れますよ!」と言って俺の顔を見てまた笑う。
「笑うな!」
「ハイ・ハイ!」と言って俺の頭を撫ぜる。
「何するんだよ!」どんなに抗っても省吾には敵わない。
今までこんな風に笑われた事も甘やかさせた事もないから戸惑うし無性に腹が立つ。
「帰る!」子供みたいに膨れて部屋を飛び出した。
背中で省吾のため息が聞こえた。