宇宙を救え!高校生!!
第13話 さよなら火星
「引き続き、ニュートリノ砲発射のため、方舟は航行モードに移行します」
宇宙のあまりの美しさに見とれてしまっていたが、冷静なハルの言葉に、はたと我に返る。
今はまだ、感動に浸っている場合では無かったのだ。
「ハル、頼む」
「ハイ。マスター。航行モード起動します」
ハルが再び操作パネル上に手をかざすと、コントロールセンター中央にある球体の中に、方舟の外観が映し出された。
キーン・・・・・・
耳を澄まさなければ気付かないほど、小さな機械音が遠くから聞こえると、僕たちの座る椅子が滑らかに移動を始めた。
椅子は円形の配置から半円形の配置へとフォーメーションが変わり、僕たちは、全員が船首の方向を向いて並んだ。
更に、中央にある球体に映しだされていた、方舟の外観にも変化が起き始めた。正四角錐の方舟が、小さなブロックに細かく分割されると、物凄い速さで組み替えられて、瞬く間に美しい流線型の宇宙船へと姿を変えたのである。
「変形したよ! カッケー!」
隼人は身を乗り出すと、球体に映し出された方舟の変形を、まるで少年のように見つめていた。
「航行モード完了。ニュートリノ砲発射準備」
ハルの言葉に呼応して、僕の座る椅子の中央部分にトリガーが出現した。
「ニュートリノ砲はこの船首部分から発射されます」
ハルの説明に合わせて。球体の中の方舟の船首部分が赤く点滅する。
「ニュートリノ砲のエネルギーには、皆さんの意志の力を用います。そして、ニュートリノ砲の破壊力は、充填されたエネルギーの総量に比例して強くなるのです」
「分かったわ、さっきみたいに、また意識を集中すればいいのね」
莉子は、エンジンの起動でコツをつかんだのか、少しワクワクしているようにも見えた。
「マスターにお願いがあります」
「は、はい!」
お願い、と言ったハルの言葉がひときわ強く頭の中で響いたので、少し慌ててしまった。
「ニュートリノ砲はそのまま発射したのでは、エネルギーが拡散して、威力が半減してしまいます。威力を保ったままでターゲットに命中させるには、エネルギーの収束とコントロールが
必要不可欠です」
僕が頷くと、こちらを振り返ったハルと目があった。
「そのためにマスターの力が必要となります。目の前に有るトリガーを握って方舟とシンクロし、方舟とニュートリノ砲を制御して、ターゲットを撃破してください」
「えっ! それって僕がやるの。 ハルじゃ駄目なの?」
「ハイ。高いシンクロ率と意志の力を兼ね備えた、マスターにしかできないことなのです」
皆、一斉に僕を見た。
僕は、プレッシャーに押し潰されそうだった。
背中を丸め、肩を落として、フーッと大きく息を吐くと、額からじとっと汗が滲み出た。
(昔からプレッシャーには弱いんだよなー)
「わ、わかった・・・・頑張ってみるよ・・・」
悩んだり、駄々をこねたりしている時間はもう無いはず。僕はそう考えると決意を固めた。
「それじゃあハル、具体的には何をすればいいの?」
「マスターの目の前に有るトリガーを握って頂ければ、後は方舟がすべて教えてくれます」
「これか・・・・・・」
ハルに言われて、改めてトリガーを見る。
一言で表現すると、棒の上にリンゴの大きさ程の丸い球が乗っているだけの、至ってシンプルな形状をしていた。質感こそ艶やかなシルバーで未来っぽい雰囲気だが、引き金も、グリップすら無かった。
「握る・・・ね。えーと・・・これでいいのかな?」
僕は、トリガー上部の丸い玉の上に右手を乗せると、意識を集中し、指先に力を込めてぎゅっと握った。
その直後だ。
右足の踵。あのスカラベが同化した踵から真っ赤な血液が逆流して、僕の全身を駆け巡る感覚があった。一瞬、意識が遠のいて体が宙に浮いている気がしたが、直ぐに、今度は強い力で頭の先からどこかに吸い込まれた。
ふと気が付くと、僕はたったひとり裸で宇宙空間に浮いていたのだ。
「わわわわわわわわわわわわ!」
大慌てで口と鼻を右手で覆うと、残った左手と両足をばたつかせてもがく。
(まてよ・・・もしここが本当に宇宙空間なら、宇宙服を着てない僕はとっくに死んでるか?)
そう冷静に判断すると、ゆっくりと口と鼻を覆っている右手を離してみた。
「息が、できる・・・・・・それに裸なのに寒くないぞ?」
「ここは方舟の意識の中。現在マスターは、宇宙に浮かぶ方舟と、意識と情報のみを共有しているのです」
どこからともなくハルの声が聞こえた。
「ハルなの?」
「イイエ。私は方舟。この船自身です」
「ハルと同じ電子生命体ってこと?」
「イイエ、私は電子生命体によって作り出された人工知能です」
電子生命体の文明にもコンピューターのような物があるって事か。と、ひとりで納得していると。
「早速ですが、ニュートリノ砲についてご説明いたします」
方舟による説明が始まった。
作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮