宇宙を救え!高校生!!
揺れと警報音は続いていたが、動揺が収まったところで僕はハルに尋ねた。
「闇の生命体のエネルギー砲によるスポット攻撃を受けました。エンジンの始動に伴い急上昇した光のエネルギーを察知されたのだと思います」
「そんなに近くまで敵がきているのか・・・・火星は大丈夫なのか?」
コロニーに暮らす家族の事を心配してか、浩二はとても強張った表情だった。
「現在、太陽系周辺には闇の生命体の生体反応はありません。よって、今回のエネルギー砲によるスポット攻撃は遠隔操作による攻撃です」
それを聞くと浩二は安心したのだろう、ほっとした表情に変わった。
「私たちは無傷みたいだけど、今の攻撃でコロニーにはどの程度の被害が出たのかしら」
「197番コロニーは、ドームの破壊によって壊滅的な被害がでました。コロニー内の住民約25パーセントが死亡。50パーセントに重軽傷者が出ている模様です」
悲惨な現実を目の当たりにして、誰も言葉が出なかった。
「落胆している時間は有りません。皆さん、引き続き意識を集中してください。攻撃の第二波が来る前にエンジンを始動します。私たちがここからいなくなれば、火星が攻撃される心配は有りませんから」
ハルの言葉に励まされて、改めて意識を集中する。
「カウントダウンを再開します。17、16・・・・・・・・・10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0! ニュートリノエンジン始動!」
カウントダウンの最後は全員で数えた。
部屋の中央にある球体の一点から現れた光が、ぐんぐん広がってやがて目を開けていられないほどの光へと成長すると、コントロールセンター内の総てが白い光の世界へと変わった。
キューン・・・
モーターの回転音に似た甲高い緻密な音が聞こえると、今まで続いていた揺れはピタリと治まって、代わりに僕たちが過去に体験したことの無い、上から下へ押しつぶされるような強烈な重力と耳の痛みを感じた。
「ぐわっ・・・・・・」
苦しそうな隼人の声が聞こえる。
「エンジン出力50パーセント。火星上空の宇宙に向かって上昇中・・・・・」
フォン!
柔らかな音が船内に響く。、
「現在の高度は1万キロメートル。フォボスの真上に到達しました」
驚いたことに、ハルの説明が終わるまでのほんの数秒の間に、僕らは高度1万キロメートル上空まで達していたのだ。そして、耳の痛みが取れると同時に、体はフワッとが軽くなっていた。
「見て!」
莉子の声に促されるように周囲を見回すと、コントロールセンター内の壁一面に、まるで壁が透明になったかのように、周囲の宇宙空間が映しだされていた。
足もとには、火星とフォボス。上空にはもうひとつの火星の衛星ダイモスが、太陽の光を受けて鈍い光を放っていた。さらに、その背景に広がる広大な宇宙には、瞬きをしない数多の星々が煌々と輝いていたのだ。
火星のコロニーの天井に映し出された人工の星空とは比べようも無いほど、深淵なる宇宙空間に存在する星々の輝きは美しかった。
「ぱねえ! ゲーム用のモニターに欲しいぜ!」
隼人の感動のポイントが、モニターのクオリティだったのはとても残念だったが・・・。
作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮