宇宙を救え!高校生!!
第11話 決断の朝
普段と何も変わらず、その日の朝はやって来た。
昨夜は興奮のため、ほとんど眠ることが出来なかったが、不思議と頭はすっきりとしていた。
いつものように顔を洗い歯を磨き、いつものようにニュースを見ながら朝食を食べた。
政治家の汚職、株価の上昇、地球の環境問題など、普段と何も変わらないニュースが流れていた。
だが、僕には分かっていた。
今日、この日を最後にいつもの自分の日常が一変してしまう事を。
もう学校へは行けないし、友だちとも二度と会うことは無いだろう。
昨日やっと帰ってこれた、両親との思い出詰まったこの家とも、たった一日でお別れなのだ。
それでも、何故か気持ちは落ち着いていた。
「おはよう」
テーブルの上に置いた、父と母の絵に向かって挨拶をしてみる。
もう僕に未練は何も無かった。
元より、父母の他に身寄りの無い僕には失う物も、僕が死んで悲しむ者も誰もいないのだから。
午前十時三十分。
両親の絵を宝箱の中へ戻すと、再び鍵をかけた。その鍵を首から下げると、それ以外何も持たずに玄関を出た。
心地良い天気だった。
そのままゆっくり桜の木の下まで歩くと立ち止まり、もう二度と忘れる事が無いようにと、しっかり目に焼き付けた。
そして、ダイモスにまたがりエンジンをかける。
キューン・・・・
軽やかなエンジン音が静かな住宅街に鳴り響くと、目的地に向けて走りだした。
火星の遺跡に到着してから時計を見ると、十二時二十分前だった。
今日は、交通費を節約してハイウェイを使わず、一般道を走ってきた。
まぁ、明日から節約も関係なくなるのだし、最後くらいは颯爽とハイウェイを飛ばして到着、でも良かったのだが、時間をかけて名残を惜しみたい気持ちもあったのだ。
「誰もいないか・・・・・」
遺跡の駐車場にダイモスを停めて、辺りを見回したが、思った通り誰も来ていなかった。
「そりゃそうだよな・・・・みんな家族がいるし、大切な物だって沢山持ってるのに、わざわざそれを捨ててまで来るはずないよな・・・・」
「よしっ、行くか!」
念のため、十分ほど待って、誰も来ないのを確認してから、僕は一人で地下に向かうエレベーターへ向かって歩き出す。
残念な気持ちも、暗い気持ちも全く無かった。昨日、ハルに提案をした時から、こうなることは想定していたのだ。
「ヤ・マ・トー!」
不意に自分の名前が呼ばれた気がして振り返ると。
「お待たせー」
そこには、ダイモスに乗って勢いよく走ってくる、奴らがいたのだ!
「お、お前ら・・・・・・・」
呆然と立ち尽くす僕の元へ、ダイモスから降りた浩二、莉子、隼人の三人が駆けつける。
「ごめんなさい。着ていく服に迷っちゃって」
ヘルメットを脱ぎ、たわわな長い黒髪を揺らしながら莉子が言った。
「オレ達は、待ち合わせしてたんだけど、コイツが遅刻しやがって」
「痛っ!」
浩二が、隼人の頭をコツンと叩きながら謝罪した。
「さあ、時間が無いわね。急ぎましょ!」
そう言って、莉子は僕を追い越すと、すたすたと一人で歩き出した。
「ちょ、ちょっとまてよ、莉子!」
僕は慌てて莉子に呼びかける。
「分かってんのか? 死ぬかもしれないし、もう二度と戻って来れないかも知れないんだぞ」
手を広げ、莉子の進路を塞ぐように立ちはだかる。
「そんなの分かってるに決まってるでしょ。私たち、ちゃんと自分自身で決めてきたのよ」
莉子の後ろで、浩二と隼人が相槌を打った。
「だけどさ・・・・・・」
それでもまだ渋る僕に。
「それに、バカ大和一人じゃ失敗しそうだから、私たちがお目付け役として付いて行ってあげるのよ。感謝しなさい!」
両手を腰に当てたキメポーズで、莉子が胸を張った。
「お前ら・・・・・・・・・・」
僕は、熱い物がこみ上げて、目頭からこぼれそうになるのを必死に堪えると。
「ありがとうな・・・・・」
そうひとこと言うのがやっとだった。
作品名:宇宙を救え!高校生!! 作家名:葦藻浮