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「Nova」Episode

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 神秘的に青い輝きを放つ石碑は所々崩れている部分があり、その原因と考えられるものが壁や床を埋め尽くしていた。
 その空間を埋め尽くしたそれらは何を栄養にして育っているのか、今も成長を続けているのが分かるような跡が残っている。
『誰か……誰かに、この言葉を伝えるまで、私はまだ……』
 艶やかに青く光る石碑に手を添えたまま、少女──ミーナは顔を俯かせた。
 しんっと静まり返ったその空間に、突然低い男の声が響き渡る。
「古代文字は誰もが読めるものではないからな」
 突然の男の声にビクリとしたミーナは、自分へ近づいてくる男へ視線を移した。
 真っ黒な服で身を包み、これまた黒い剣を片手にして、男はミーナの隣までやってくるとその巨大な石碑に書かれた古代文字をじっと見つめた。
 その男にミーナは僅かに困惑した。
『お兄ちゃんは、誰……?』
 ミーナが恐る恐る声をかけると、男は赤い目だけをミーナへと移す。
 だが、男は直ぐに目線を石碑へと戻した。
「……アデュー、セスティ、スピア。 我ら三人の名のもとに、この言葉を残す」
『お兄ちゃん、この文字が読めるの……!?』
「まぁな。 お前は読めないみたいだな、幽霊少女」
 男はミーナの姿も見ずに言う。
 ミーナは俯きながら口を開いた。
『そう、私は読めないの……だから、ここに書かれている言葉を誰かに読み取ってほしくて…』
「何故お前がそんな事を思う」
『頼まれた、から』
「……ふん、なるほどな」
 何かを理解したかのように男は目を閉じる。彼は肩にかけていた黒剣を石碑に向かって構えた。
 その様子にミーナは驚き、慌てて男に掴みかかると声を荒げた。
『待って! 何をする気なの、お兄ちゃん!!』
 ミーナの声にうるさそうに顔を歪めた男は目線をミーナへと移すと、落ち着いた声音で言う。
「この石碑を破壊するんだ」
 男のその言葉を耳にし、ミーナは目を見開く。
『どうして! 駄目だよ! そんな事しちゃだめっ!』
「石碑に書かれている言葉は全て俺が読み取った。 心配するな」
『そうじゃない! そう言う事じゃ……ないのっ!』
 頭をブンブンと横に振り、必死に止めようするミーナに男は小さく息を吐いた。
「お前はこの石碑に縛られている」
 そんな男の言葉にミーナは、はっとしたように動きを止めた。
「もうこの三人はいない。 石に言葉と魔力を残して」
 ミーナが息をのむ。
「死んだんだ」
『……そんな、事』
分かってる、と言おうとしたミーナの言葉を遮り、男は続ける。
「もう自由になってもいいんだ。 お前は、もう休んでもいいんだ」
 男を見るミーナの瞳の奥で何かが揺らいだのが分かった。
 そんなミーナの手からは服を掴んでいた力が徐々に抜け、完全に手が離れると、ミーナはフラフラとしながら僅かに後ずさった。
 ミーナの瞳には、今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっている。
 ふう、と男が小さく息を漏らすと、しっかりと黒剣を握りなおし石碑へと向き直る。
「雷神よ、我が声に耳を傾けよ。 剣に宿り、更なる鋭さをこの刃に」
 途端、男が持っていた剣からバチバチと雷が漏れだし始めた。青い雷は黒剣をまとい、男の周りを走り回る。
「剣技・蒼雷」
 呟いた瞬間、男は雷を帯びた黒剣を素早く十字に振った。同時に鋭く甲高い斬音が響き、再び静寂が舞い戻る。
 下ろした剣の切っ先を目の前の石碑へと静かに当て、男が小さく口を開いた。
「爆」
 その瞬間、突然石碑が十文字に割れ、その間から蒼い雷が放たれた。雷は眩い光を放ち、爆発音を響かせながら石碑をバラバラに砕く。
 辺りは土煙で覆われ視界が悪くなり、ガラガラと石碑の崩れる音が聞こえた。
 暫くして、土煙が落ち着き視界が良くなると、男は視線を横に移す。
 だが、その場所にミーナの姿はなかった。
 ただ、その場所に一つの首飾りが落ちていた。その首飾りには、希望を象徴とする星が付いている。
 男はその首飾りを拾い上げると、天を仰ぐように顔を上に向け、目を閉じた。
「ゆっくり休め」

――……

「もしかして……」
「ま、怪しい臭いはプンプンするな」
 ノックスとティートの二人は二階武器倉庫を出たあと、初めに敵に遭遇した一階のエントランスへ下りた。また敵が出るかもしれないという事もあり、常に武器を構えて歩いていたのだが、幸か不幸か、全くといって敵に出会うことはなかった。
 不自然に静かな屋敷内を巡り歩き、二人はある書斎にたどり着く。何か貴重な資料はないものかとその部屋を調べる中、ティートはおかしな装置を見付けていた。それは、この書斎にあった唯一の机の下へと隠すように置かれていたのだ。
 疑問に思い、ティートがおそるおそる装置に付いていたスイッチをカチッと押したところ、突然書斎の本棚の一部が動き、地下へと続く階段が現れたのだった。
「どうすんだ?」
「もちろん、降りてみよう」
「まぁ……いいけどよ? この暗さじゃ何も見えねぇぞ?」
 ティートが腕を組みながら、現れた階段を覗き込む。まさに、一寸先は闇だ。
 ティートの言葉にノックスが僅かに呻くと、はぁと小さく息を吐き出した。
「しょうがない……魔法を使って光を作ろう」
「いいのか? お前さっきも魔法使ってただろ」
「光を出すくらいなら魔力はそんなに削られないだろう。 大丈夫だ」
 そう言うノックスに、ティートは心配そうに眉を寄せたが、分かった、と小さく頷いた。
 ノックスが右手の人差し指を立てる。
「光よ、我に集え……ルミエ」
 たちまちにノックスの人差し指に光の粒子が集束し、二人を包むように照らす光の玉が出来上がった。
「よし、行くぞ」
ノックスを先頭に、真っ暗闇に包まれた階段を降り始めた。

──どれくらい降りただろう。
 二人が黙々と階段を降り始め、十数分。いまだに二人は暗い階段を下っていた。
「……なぁ」
 ティートが静かに言葉を発する。
「……何だ」
「……長いんだけど」
 ノックスの足が突然止まり、勢いよく振り返った。
「私に言うなっ!」
 大声で叫んだノックスの予想外の反応にティートは驚く。
「どぅええっ!? なら、誰に言えば良いんだよっ!」
「この階段に言えっ! 階段に!」
「おまっ、階段に愚痴ってどうすんだよっ!」
「私に言っても何も変わらないだろう!」
「それでも、『そうだな』ぐらい言ってくれてもいいじゃねぇかっ!」
「……っあぁ、もう! 黙れえぇ!!」
「はっ、えぇっ!?」
 そんなやり取りをしていると、二人は何かに気付いたように会話を止めた。何度か嗅いだことのある腐臭。
「これは……」
 二人がその臭いに顔をしかめ、敵に警戒する。
 ノックスが闇に目をこらしたその時、足を引っ張られたかのようにノックスはその場で転倒した。
「ノックスっ!?」
 ティートの声が響き渡る。ノックスはそんなティートを振り返らずに、自分の足の先を光で照らした。
 足首が、影に捕まっていた。
 強く足首を掴む影の存在を認識したノックスの喉奥から、僅かに悲鳴が漏れ出す。その影はズズズッと不気味にノックスの足を呑み込んでいき、体をも呑み込もうと範囲を広げ始めていた。
「──ノックス!」
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那