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「Nova」Episode

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「"ノヴァ"を見つけた奴はこの世界中どこを探してもいない。 つまり、この情報が外にもれればこの近辺ハンターだらけになるだろうな」
「お前はその話どこから聞いてきたんだよ?」
「情報屋」
「あーなるほど……ルチファールか」
「あそこは私しか行かないからな」
「知ってる奴も俺とノックスくらいだろうしな」
 そう言って、笑みを浮かべたティートは身を乗り出す。
「で? 行くんだろ?」
 ノックスも笑みを浮かべる。
「あたりまえだ」
「いつ行くんだ? 幸い、今日の学校はずーっと自習だぜ?」
「そうなのか? なら……」
 少し考えるように空を見上げたノックスは、直ぐにティートに視線を戻した。
 その目を見れば、長い付き合いのティートには考えていることが分かった。
「ん? でもお前いいのかよ? 一応、優等生だろうが」
「別にいいだろう。 一回くらいなら注意だけで終わるさ」
「……こんなのが学校で頂点に立ってんだから皮肉なもんだな……」
 ふっと小さく笑ってから、勢いよく立ち上がる。
「よしっ! そうと決まれば早速準備するか!」
「各自出来たら学校裏に集合でどうだ?」
「おぅ! 了解!」
 そうして二人は屋上をあとにした。
 空は太陽の光でほんのりと赤く染まっていた。


 太陽が町全体を照らし出す。照らされた町は徐々に活気に満たされていき、人々の声が飛び交ってきた。
 王都─"バハート"
 この世界の中心となる国。王都として有名なバハートは、戦闘訓練学校がある国としても有名である。
 この世界では国を一つ一つ結界で守っており、結界の外には魔物がいるとされている。そうなると、人々は外には出ずに生活をしていることになるが、それぞれの国で技術が発達しているので結界の中にこもっていても、商売等出来るような仕組みが出来ていた。
 その為、世界中の人々のほとんどは外に出たことがなかった。
 そして、人々は外に憧れを抱くようになり、いつか自分たちの力で外へ出たいと思うようになった。そこで国に造られたのが戦闘訓練学校であり、そこに若者を入学させ戦闘技術を学ばせることで、その者たちを先頭として外への進出を夢見ているのだ。
「悪く言えば、俺達は国に使われてるって事だよな……」
 青々と茂った草の上に座り、昇ったばかりの太陽を見つめながらティートは一人でボソッと呟いた。
 一足先に準備を整い終えたティートは、集合場所である学校の裏にいた。
 額には緑と青のバンダナをつけ、背には長銃、後腰には短剣、首からは金色に輝くクリスタルを下げている。
 ティートは首に下げていたそのクリスタルを、左手でギュッと握りしめた。
「俺達は人形じゃない……」
 遠くにそびえ立つ王都の象徴である大きな城を睨み付けたティートは、空いていた右手を城と重ねた。そして、キッと視線を鋭くすると同時にその右手で城を潰すかのように、グッと握り締めた。

 同じ頃。
「……そんな金はない」
「なら、情報は渡せないな」
 アンティーク調にまとめられた建物の中で、蒼の瞳の少女は目の前に座っている男を睨み付けていた。
「睨み付けられても困る」
「だったら少しくらいまけろ」
「ダメだ。あの廃墟の情報はただでさえ少ない。その一番貴重な部分を教えたんだ。それも格安でだ」
 あくまで無表情でそう話す男に、ノックスは深く溜め息を吐き出す。
 ノックスは結界の外に出る前に、少しでも目的の場所の情報を集めようとルチファールに来ていた。
 情報屋『ルチファール』
 バハートに唯一ある情報屋であるが、存在を知っている者はノックスとティートのみである。ルチファールがある場所も、普段誰も寄り付かないような所にあり、その上、外からの見た目も明らかに怪しい雰囲気をしているのも原因の一つなのかもしれない。
 何度か足を運んだノックスとティートはその情報の正確さを認めているため、今では常連となっていた。
 そして、そのルチファールの店主のライム・リルファ。黒髪、黒長コート、黒ブーツ、と全身黒ずくめな格好の男。黒の中に浮かぶ紅玉の瞳は、いつも何かを見抜くような輝きを放っているために、ノックスはライムの目が苦手だった。
「どうする?」
「む……どうにか譲ってはくれないのか?」
 困ったように問うノックスに対し、顎に手を添えて考えるような仕草をしながらライムが言った。
「どうにか、か……まぁ、無いことはないがな」
「あるのか!?」
 思わず近くにあったテーブルを叩き付け、ノックスは身を乗り出した。
 テーブルを叩き付けた音に僅かに驚きながら、ライムは懐から一枚の紙を取り出した。
 そして考えるようにそれを暫く見つめてから、ノックスに見せるように紙を持っていた手を前に差し出した。
「この事について知っている事を言えるなら、タダで情報はくれてやろう」
「っ……!!」
 覗き込むように身をかがめてそれを見た途端、ノックスの顔は青くなる。
 ライムが持っていたのは一枚の古びた写真。
 その中には、幼い少女と背の高い少年が、仲良く二人で写っていた。

――……

 草を踏む気配を感じ、下に落としていた視線を上げると、後ろから蒼の少女が歩いて来ていた。
「悪い…少し遅れた…」
 僅かにうなだれて呟いた蒼の少女――ノックスにティートは微笑みながら言う。
「別にいいって。時間は決めてなかったしな」
 ティートの言葉にノックスは頷いた。それでも悪い、と呟くノックスの声はいつもよりトーンが下がっている。
 不信に思い、ティートは眉を寄せながら口を開いた。
「ノックス?」
「え……あ、何だ、何か言ってたか?」
 ティートの声で目が覚めたように焦りをみせたノックスに、更に眉を寄せる。なにかを隠しているのだろうか、と少しだけ首を傾げた。
「……どうしたんだよ」
「何がだ……?」
「さっきからおかしいだろうが」
「そんな事はない」
 そう言ってノックスは笑ってみせるが、明らかに無理をして笑顔を作っているのが分かった。
 そんなノックスを見てティートははぁ、と息を吐く。
「ま、無理には聞かねぇよ。 …だけど、あんまり一人で背負うなよ」
 そんなティートの言葉に、ノックスは驚いたように少し目を見開く。
 眼下に広がるのは家を詰め込んだような下町の風景。その上には貴族達が優雅に暮らし、それらの真ん中には美しくそびえ立った城。
 その美しさすらも、ノックスにとっては憎しみの塊でしかない。いや、城だけではない。この国そのものすら、憎しみを向ける対象としては十分だった。
 ティートが目の前にあった階段を数段下り、そこから見上げる形でノックスを見つめる。
 ティートの背後は憎しみの国の全景。
 その国を美しいと思った事がなかったノックスだが、今、この瞬間だけは『美しい』と心が叫び声をあげた。
 "風"を思わせるような澄んだ翡翠の瞳。
 二人を包み込むように舞った花びら。
「お前は一人じゃない」
 微笑みながら言うティートの姿に、ノックスの心臓は知らずのうちに弾んだ。
 ノックスの目の前に手が差し出される。
「……俺が、います」
 その言葉に蒼い目がゆっくりと細められた。差し出したティートの手に、別の手が重なる。
「……うん」
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那