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「Nova」Episode

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 僅かに声を低めて呟き、ライムはイスから立ち上がる。騒ぐ男たちから視線をマスターに移して礼を言い、早々と店を出た。
 裏道を出て大通りに出ると、ライムは深く息を吐き出して夜空を見上げ、その視線を城へと向ける。城は、明日の賑わいを表すかのように、明るく華やかに輝いていた。

「ティート様、よろしいですよ」
 壁に背を預けながら廊下で待っていると、扉の向こうからそんな声を掛けられた。
 裏地に赤い上質な布を使った白いマントを着け、裾の長いスーツでしっかりと正装したティートが、閉じていた目を開く。妙に心臓が早鐘を打っていることにティートは困惑し、廊下に心臓の音が響いているのではとキョロキョロと周りを見た。
 誰もいないことを確認してから、ティートはすぐ横にあった部屋の扉をゆっくりと押し開ける。
 一瞬、目を細めたティートはすぐに目を見張って声を詰まらせた。
 視線の先には、薄青と純白の布地を使ったドレスを身に纏い、長い薄水色の髪を高いところで一つにまとめ、頬を朱に染めたティラが立っていた。端整な顔が一層際立てられ、「美しい」の一言では言い表すことが出来ない。
 そんなティラを見つめたまま、見事なまでに硬直したティートにティラは声をかける。
「あの……ティート?」
「うっ!? あ、あぁっ、悪いっ」
 ティラの呼び掛けで我に返ったティートは、わたわたと慌てた様子で言った。
 じわりと背に汗が滲む。
 何度か深呼吸をしてから、ティートは小さく呟く。
「ティ、ティラ」
「はい?」
 ティラに見つめられ、ティートは思わず視線を外した。
 自覚はないであろう、顔が耳まで真っ赤になっている。付き添いでその場にいた二人のメイドがクスクスと笑っている。
「そ、その……」
「はい……?」
 ティートがぐっと息を詰めた。

「……き、……キレイだぞ」
「……っ!」
 ティラの目が見開かれ、更に頬に朱が差した。余程恥ずかしかったのか、ティートは完全に背を向けてしまっている。
 そんな事をしていると、ティートの目の前の扉がノックされた。慌てた様子でティラが返事をすると、扉は開かれ、執事が姿を現す。
「そろそろお時間ですので、ティラ様、ティート様は広間へお願いいたします」
「分かった」
 ティートとティラは頷き部屋から出て、高価そうな絨毯が敷かれた廊下を執事の後に続いて歩いた。
 継承式が行われる前にティラからの演説があるため、ティラは緊張で顔を強張らせていた。
 それに気付いたティートが声をかける。
「ティラ、大丈夫だ。 俺も一緒にいるからな」
 そう言えば、ティラはティートの顔を見上げて嬉しそうに頬を緩めた。

 広間へ入るとティラの父、セルズ王が柔らかな笑みを称えて待っていた。
 そして、ティラとティートに向けていた視線を外し、横に移す。
 大きな窓を開けた先にはベランダのような空間がある。そこでティラの演説を行うらしい。
 セルズ王は特に何も言うでもなく、二人を見つめていた。
「ティラ」
 ティートが声をかけ、手を差し出す。ティラは覚悟を決めたようにぐっと唇を噛みしめ、差し出された手に自分の手を重ね、ティートと共に外へと歩み出た。
 途端、大歓声が二人を包み込んだ。
 ティラとティートがそこから全体を見渡せば、人という人がひしめきあい集まっており、二人を見上げて声をあげていた。その光景に唖然としていたティートは、突然ティラの手がするりと抜けた事に気付き、我に返る。
 ティラはティートと違ってしっかりと国民たちを見据え、やがて国に声を響かせた。
「私はまだ未熟者で、父のように立派な事は言えません。 ですが、まずここで言いたいことがあります」
 ティラの言葉を待ち、ざわついている。ティラは輝く笑顔で、声を張り上げた。
「みんな、ただいま!!」
 ティートが横で微笑むのと同時に、再び大歓声が国を包んだ。
 そんな国民たちの頭上で大きな音が鳴り響く。花火のようだったが、それは普通の花火とは違っていた。ドンッと音が響くと光が大きく広がり、そこから大輪の氷華が咲き誇る。その氷は徐々に光の粒子となり、国民たちに降り注がれたのだ。
 感嘆の声が聞こえるなか、背後の大臣の声が耳を掠めた。
「花火など予定にありましたか?」
「いいではないか、とても美しい花火だ」
 セルズ王の嬉しそうな声が聞こえた。
 その花火に魅せられていたティラも感嘆の息を洩らし、隣にいるティートに視線を移して、驚愕した。ティートが目を見張って、体を震わせていたのだ。
「ティート?」
 ティラの声が耳に届くことはなく、ティートはただ焦ったように辺りに視線を巡らせる。と、ある場所に視線を合わせると、再び空に氷華が咲き誇った。
 花火は、あの丘の上から放たれていた。目を細めて、そこにいる人物を見るとティートの心臓が、どくっと高鳴った。
「……っ!!」
 しっかりと顔は確認できた訳ではない。
 だが、見えた。
 ティラと同じ、薄水色の髪。
 三発目の花火が鳴る頃には、ティートの様子でティラにも何が起こっているのか分かっていた。震えたティートの手をゆっくりと包み、揺れ動くティートの瞳を見ながら柔らかく微笑んだ。
「あなたはもう、"アサルト"じゃないから」
「ティラ……」
 震えたティートの声に、ティラは笑顔で言う。
「……大好きでした」
「……あぁ」
 ティラの言葉に、ティートはふわりとティラを抱き締めてから、その場から駆け出した。
「なっ、ティート様!?」
「止めなさい」
 広間を横切ったティートを止めようとした大臣たちに、ティラは凛とした声を響かせる。
「今ティートを追いかけるのは許しません」
「し、しかし今は……!」
「これは私の命令です」
 そう言えば、大臣たちは呻き声をあげて黙った。再びティラは国民たちに向き直る。
 不思議なくらい、心がすっきりと晴れ渡っていた。
「長い夢を見ました」
 ティラが言うと、ざわついていた国民は一気に静まり返った。

「はぁ……はぁ…!」
 城を出たティートは、兵士たちの制止の声を気にすることなく、ただひたすらに走る。動きにくいこの服装を呪った。
 この3年で、分かっていた筈だったのだ。失ってからでないと、本当に大切なものは分からないとよく言うが、それは本当だと思う。
 気付いたんだ、今更。
 気付かされたんだ、あいつに。
「ぐわっ!」
 走っていたティートの足が何かにつまづいて、盛大に転ぶ。だが、ティートはすぐに立ち上がって再び走り出した。
 見慣れた粗末な坂道を全力で駆け、息も更に荒くなり、喉の奥がヒリヒリと痛くなっていた。
 坂を登りきり、視界がひらけると同時にティートは叫ぶ。
「ノックス!!」
 荒く息をしながら前を見れば、薄水色でセミロングの髪の女性が、蒼い瞳を大きく見開いて立っていた。前方へ突き出していた女性の手には銃が握られている。
「あ」
 そんな声を上げた女性は、荒く呼吸をするティートに向かって銃口を向け、引き金を引いた。
「えっ……って、どぅわっ!!」
 銃弾はティートの目の前で弾け、小さな氷の花を咲かせて光になる。
「て、てめ、何を……!」
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那