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「Nova」Episode

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 力ずくでも留めておくべきだったか、と考えている自分に気づき、ライムは随分とまるくなったものだ、と呟き内心苦笑する。
 そして、起きた時のティートの姿を想像しながら、ゆっくりと目を閉じた。

「……っ!」
 突然、ティートがガバッと顔をあげる。
 嫌な夢を見た。その内容は既に頭には残っていなかったが、落ち着かない心に軽く舌打ちをした。
 気が付いて辺りを見れば、朝日に照らされた世界が輝いているかのように見え、その眩しさにティートは目を細める。
 隣を見ると、ティラはまだ眠っていた。くーくーと寝息をたてている。
 ふと、向かいにも目を向けてノックスの姿がないことに気付き、もう起きたのだろうか、と欠伸をしながらイスから立ち上がった。
 山積みになっている瓦礫たちを見ながら前庭へ足を向け、噴水の前に立っていたライムに声をかける。
「よっ、おはようライム」
「あぁ」
 いつもと変わらないライムの声色に、ティートの不安は僅かながら抜けていった。
 ライムの近くに歩み寄り、同じように噴水を見つめる。
「そう言えばお前さ、あのドラゴンに……」
 ライムがティートの方に目を動かすと、眉を寄せて心配そうにした翡翠の瞳とぶつかった。
「その……命の灯火がどうとか、言われてただろ?」
 呟いたティートに、ライムはいらない事はよく覚えているんだな、と内心でため息をついた。
「俺の一族は元々寿命が短い奴が多かった。 40年も生きればいい方だったが、俺の家族はもっと寿命が短くてな」
「そうなのか……」
 声のトーンを落として呟き、ティートは再び噴水に目をやる。そこで漸く思い出したらしく、誰かを探すように周りをぐるぐると見渡した。
「ノックスはどこ行ったんだ?」
 ライムの手がピクリと動く。
 隠しておく訳にもいかない。いずれはどうやっても知れる事だろう。
 そう思いながら、ライムはティートをしっかりと見据え、右手の中にあるクリスタルを感じながら、静かに言う。
「あいつはもういない」
 ティートは呆然とライムの顔を見つめ、言葉の意味を探っているようだった。
 そして、だんだんとその表情は怒りと悲しみを含んだものに変わっていった。
「どういう事だ……」
 いつもより低い声でティートはライムに問う。
 じっとライムを見つめ、なおも言葉の意味を探った。悪い意味にしかとらえられなかった。
 質問に答えずに無言でいるライムに我慢できず、ティートは声を張り上げる。
「どういう事だって、聞いてんだよっ!!」
 ガシッと力強くライムの胸ぐらに掴みかかり、不安の色を混ぜた瞳にライムを映す。
「お前なら、分かってるんじゃないのか」
 ライムの言葉に、ティートは歯ぎしりをした。
 途端に蘇るノックスの声。

『ティラ本人が見つかって、ティートも嬉しがってるだろう』
『これで、コピーの私はお役御免だな』

 機械で出来ている胸が、システムで組み込まれているはずの感情が、破裂しそうな程に高鳴って、混乱して、収集が追い付かない。
 大声で叫んだティートの声で目を覚ましたと思われるティラが、焦った様子で前庭にやってきた。そして、ライムに掴みかかっているティートを見て驚愕する。
 ティートの手から力を抜けたのを感じ、ライムはその手から逃れると、右手に持っていたクリスタルをティートの目の高さまで持ち上げた。
 ゆっくりとそのクリスタルをティートは受け取り、呆然とした様子でそれを見つめる。
「『ティートの幸せが、ティラの幸せが、私の幸せだ』」
「……っ?」
 疑問を顔を浮かばせたティートにライムは付け加えた。
「あいつが言ったことだ」
「ノックスが……」
 赤い瞳でティートの手の中にあるクリスタルに視線を移し、ライムは小さく呟く。
「……『ありがとう』だそうだ」
「っ……!」
 ティートの顔は一気に悲しみに歪められ、ギリッと手を握りしめた。
 そんなティートに近寄ってきたティラは、そっとティートの手に自分の手を重ねて、項垂れたティートの顔を覗き込み、名を呼ぶ。
 だが、そんなティラの声はティートの耳には届いていなかった。

 ──追いかける?
 どこに行ったのかも分からないのに。
 ──ティラを城に戻したら一人でも探しに行く?
 今まで一人だった姫様を、また一人になんて出来る訳がない。
 
今まで黙っていたティートは、突然、噴水の水に頭を突っ込んだ。
「ア、アサルト!?」
「……」
水の音を聞きながら、ティートは強く強く目を瞑り、やがて、水中で怒りとも悲しみともとれないような叫び声をあげた。


そして、ノックスの生死と行方が分からないまま、3年の月日が流れた。


――cher mon precieux――


 翡翠の瞳が、夕暮れのオレンジの空を映していた。
 街が夕日の色に染まり、まだ暖かい風が吹きわたっている。
 肩から背に垂れた白いマントと、短い緑髪がなびいた。青年は空から目を離すと、見慣れた不気味な情報屋のドアへと手をかけて押し開ける。
 薄暗い部屋の奥では、専用のイスに腰かけた赤い瞳の男が座っていた。黒く長い後ろ髪を軽く一つに縛って、昔から変わらない黒い衣服を身に纏っている。
「何の用だ」
 机の上の書類から目を離さないまま男が言うと、青年は苦笑しながら机に近づいてため息混じりに呟く。
「まるで迷惑者扱いだな、俺」
「あぁ、迷惑だ」
「酷ぇ……」
 男の目の前で青年は立ち止まり、一枚のハガキを男に差し出した。そのハガキを受け取った男は、その裏面にざっと目を通す。
『ティラ・リュミレイ 継承式招待状』
 と、丁寧な字で書かれていた。
「招待状がないと行けないのか?」
 渡らない奴はどうなる、と言うような顔をした男に、青年は軽く笑う。
「バハートにいる国民全員になら必ず配られるさ。 でも、ここは配られるか怪しかったから、俺が直々に届けに来たって訳だ」
 青年の言葉を聞き、男はつまらなそうにハガキを机に置いた。そして、男は青年の顔を見て問う。
「体はどうだ」
「おぅ、何の問題もねぇ。 ただ、人間になったっていう自覚は未だにあまりねぇな」
 そう言う青年に、男は笑みを浮かべることなく「そうか」と小さく呟いた。
 青年は明るく満足げな表情を浮かべ、自分の腕をぐるぐると動かす。
「ライムってさ、情報屋より何でも屋の方がいいんじゃねぇ?」
「何でも出来るほどできちゃいない」
 男──ライムが淡々と言ったのに対し、青年──ティートは「そうか?」と不思議そうに首を傾げた。
 ふと、ライムとティートの視線が合うと、ティートの顔から笑みが消える。
「情報は入っていない」
 ライムの声が静かに部屋の中に響いた。
 ティートの顔に再び笑みが戻ってくる。酷く辛そうで、悲しそうで、諦めが混ざった笑み。
 ティートはゆっくりと深く息を吐き出してから、先程入ってきたドアへと歩き出した。店を出る前に、ティートは一度だけ振り返ってライムにまた来る、と一言を告げ、外へと出ていく。
「3年も生死の確認が出来ないと、さすがにな…」
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那