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「Nova」Episode

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 それを受け止めたティートは空いていたイスに座らせ、自分が着ていた上着をティラに掛け、息をついた。
「ティラ様から聞いた」
 ティートがティラを見つめながら静かに口を開く。
「ティラ様も、ノヴァを探していたみたいだ」
「……自分の病弱な体を治す為にか?」
「……あぁ」
 小さな声でティートは肯定し、横にいたノックスに一瞬だけ視線を移した。
「それで、見つけた時に偶然起こったノヴァの成長に呑み込まれたと?」
 ティートが頷く。
 確かに、ティラの体は病弱だった。だが、コアが心臓の役割を果たしている事で、今のティラは病気を患ってはいない。コアがティラの願いを叶えたという事なのだろう。
「そう言えば、ライム。 さっきの……クリスタルになったドラゴンが砕ける時にいた女の人、知ってんのか?」
 首を傾げて問うティートにライムは暫しの間を置いて、小さく言った。
「……婚約者(フィアンセ)だ」
 沈黙がおりてきた。
 ライムを見て、ティートは口を開けたまま目を見開いている。それはだんだんと崩れ、一層大きく口を開けて大声を出そうとしたティートを、ライムは黒剣の峰で叩いた。
「……って! あ、危ねぇ……突然すぎて大声出す所だったぜ……」
 呆れたようにライムがため息を吐く。
 ティートはライムに叩かれた足をさすってから、真剣な顔をした。
「聞いてもいいのか?」
「……」
 ティートはライムの瞳をじっと見つめる。
 そのティートの視線からライムは顔を背け、静かに呟いた。
「詳しくは話さん」
「あぁ」
 ライムが目を閉じる。
「俺たちが住んでいた村には、巨大なクリスタルがあった。 そのクリスタルは今では珍しい、人に害を及ぼすような影響を出さなかった。 逆に、結界のような役割の影響力を持って、それが届く範囲内で俺たちは普通に暮らしていた」
 それを聞いて、ティートはそんなのもあるんだな、と呟いた。
「……それも、一晩で無になった」
「一晩で無に?」
 ライムが顔を歪める。
「突然、クリスタルと守護者のイルミナが暴走し、そいつらが村を滅ぼした」
「っ……!?」
 ティートの喉の奥で言葉が詰まった。
「クリスタルとイルミナは俺一人だけを残して、村人を皆殺しにしたんだ。 さっき言った……俺の婚約者も目の前で死んだ」
 ライムにかける言葉が出てこなかった。
 会話をもう一度思い出すと、その原因……暴走の理由は分かっていないのだろう。一晩で、ライムは全てを無くしたのだ。
「……あとはいいだろう」
「あ、あぁ……」
 唖然としたまま、ティートは小さく頷いた。
 それを見てから、ライムはすくっとイスから立ち上がると、ティートをじっと見つめた。そのライム視線に、ティートは首を傾げる。
「?」
「お前はどうだ」
 突然の問いかけに、ティートはさらに首を傾げた。
「どうだって……?」
 疑問に首を傾げたティートに、ライムは別な物に視線を移した。その視線を追ってティートが見つけたのは、すやすやと眠るノックスの姿。
「……」
 ライムの質問に答えずに、ティートは無言でノックスを見つめた。
 その様子に、ライムは軽く鼻を鳴らして表の庭の方へと消えていく。
 ティートはライムが座っていたイスに静かに腰掛け、ティラ、ノックスと視線を移す。ノックスの寝顔を見つめながら、ティートは小さく消え入りそうな声で囁いた。
「……お前の"幸せ"は何だ……? ノックス……」
 その場に吹き付けた夜風が、優しく髪を撫でていった。

 それは、ティートとティラが完全に目を覚ます数時間前の事だった。
 吐息混じりの小さな声が聞こえると同時に、その少女の体が僅かに動く。
 そして漂う覚醒の気配。
 腕を枕がわりにしたまま薄く目を開けると、ぼんやりと見覚えのある緑髪の少年の顔が目に飛び込んで来た。もう一度だけ瞼を強く閉じて、再び開き、ノックスは起き上がる。
 周りを見渡せば眠った頃と変わらない紺色に世界は覆われ、空を見上げれば無数の星がチカチカと瞬いていた。
 まだ夜中だという事から、ノックスは1、2時間程しか眠っていなかったのだろうと解釈し、ふぅと息をついてから眠っているティートとティラに目をやる。
 二人ともぐっすりだ。ティラは僅かに寝息をたてて、ティートは変わらず静かに目を閉じている。
 その様子にノックスはクスッと笑みを溢して、イスに腰かけたまま星空を眺めた。
 暫く、呆然としたようにノックスは星空を見上げ、ふいにやってきた冷たい風に意識を戻される。
 ため息を吐き出そうと開いた口を寸前で閉じ、イスから静かに立ち上がったノックスは、ティートとティラを見つめてからふっと微笑する。
「いつかまた、笑える……だから」
 と、最後の言葉が詰まった。
 透明なガラス玉のような瞳を揺らして見つめ、二人が起きないように静かに裏庭から去った。
 夜の冷たい空気に僅かに身を震わせながら前庭へ行くと、塀に背を預けて傍らに黒剣を置き、身動き一つせず瞼を閉じたライムを見つけた。
 そのライムにも暫く視線を注いでから、ノックスは鉄で作られた門へ歩を進める。
 すると、突然誰かの声が耳を掠めた。
「どこに行くつもりだ」
 言わずとも分かる、低く冷たい声。出会った頃と変わらないその声にノックスは足を止め、静かに口を開く。
「どこ、だろうな」
「今の時間に出ると、気付いたら魔物の腹の中だぞ」
「そこまで私は弱くないと思ってるがな」
 僅かに苦笑しながら口にしたノックスに、目を開いたライムが視線を移す。
「お前の出した結論か?」
「……」
「お前のその行動が、お前の"心"か?」
「……」
 無言のまま、ノックスは門の先を見つめていた。
 結界を越えれば、広大な大地が広がり、バハートだけではない幾つもの国と都市がこの世界に存在している。国から国へ人の足で渡り歩くのは決して容易なことではなく、逆に危険だ。
 それも複数ではなく、一人で行くとなると更に危険は大きくなる。
 だが、ノックスは決めていた。
「私は──」
 はっきりとした声が響く。
「ティートの幸せが、ティラの幸せが……私の幸せだ」
 ライムが眉を寄せる。
 再び歩き出したノックスは門の前で立ち止まると、視線を向けていたライムに何かを投げやった。それを片手でパシッと受け止め、手の中にあったそれをライムは見る。
 金色のクリスタルだった。
「それ、ティートに返しておいてくれ」
「自分で返したらどうだ」
 冷たいライムの言葉にノックスは苦笑する。
「"ありがとう"って、伝えてくれ」
 門にかけていた手をぐっと前に押し出すと、ギィィ…という不気味な音がした。
 さらっと薄水色の髪を揺らし、ノックスは足を踏み出して、途端に広がる視界に深く息をしてから後ろ手で門を閉める。
 ──さよならじゃない、きっと。
 ノックスの頭上で、流れ星が帯をひいてキラリと流れていった。

 ガシャンと門の閉まる音を聞き、ライムはため息を吐き出した。
 瞳の中に映る金色のクリスタルを見ながら、脳裏で悲しそうな笑みを浮かべたノックスの姿に、ちっと舌打ちをする。
「どいつもこいつもバカだけか」
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那