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「Nova」Episode

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 そう言って、ティラはティートに抱きついた。
 声を上げて泣くティラをティートは優しく背中に手を回して抱き締め、そのまま空を見上げた。その瞳の奥に、一人の少女の姿を描きながら。

「話は終わったのか?」
「ライム……」
 広い敷地内を歩いて屋敷の裏側の方へ行けば、そこには花畑があり、一つのテーブルと三つのイスが置かれたもう一つの庭があった。
 表の庭と同様に、ここもよく手入れがされており美しい。
 その三つのイスの一つに腰を下ろしていたライムを見つけ、ノックスは僅かに驚いたような表情をした。
「ライムでもこんな所に来るんだな」
「お前らは俺を何だと思ってるんだ」
 クスクスと笑うノックスは、座っているライムに近づいて他のイスを指差し「いいか?」と尋ねる。好きにしろと言うようなライムの態度を見てから、ノックスはライムの向かいのイスに座った。
「どうした」
「……? 何がだ?」
 突然ライムに問われたノックスは疑問符を浮かべる。問うたライムはノックスを見ずに、目の前で咲き誇る花畑に目をやったまま口を開いた。
「何がそんなに悲しい」
「……何を」
「自分に嘘をついていると感情を無くすぞ」
「……」
 ライムの言葉にノックスは遠くを見つめ、何かを思い出すように目を細める。
「ライムになら、言ってもいいかもな……」
「……」
 ほんのりと笑んで呟いているノックスの横顔は悲しそうに見えた。
 遠くを見つめていたノックスは、何かを決心したように目を一回だけ強く閉じ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「私は、ティラ・リュミレイのコピー体。 ティラの体内情報を使って作られたコピー人間だ」
「コピーだと? 王宮ではそんな事を……」
 眉を寄せて言うライムの言葉に、ノックスは自分の声を重ねるようにして続けた。
「いや、コピーは私だけだ」
「たった一回だけ、か?」
 ノックスは頷く。
「ティラは……私が作られた頃には、もうティラは国にいなかった」
「……」
 ライムは無言でノックスの話に耳を傾けていた。
「私はただ王宮にいた奴らに従って、バハートの姫になった。 名前も"リュミレイ"と名乗って姫としての役目を果たしていた。 いつも側にはアンドロイドがついて……」
「それがティートか」
 ライムの呟きにノックスは驚きつつ、頷いて肯定した。
「王位継承の話が広まってきた頃だ。 いつも通りに私はアサルト……ティートと一緒に城を散策していた。 その時に、ある部屋から漏れて聞こえてきた話に耳を疑ったよ」
 顔を俯かせたノックスの瞳は暗く沈んでいる。

『姫様のコピー体は劣化物ができると言われていたが…』
『ああ、だが実験は大成功。オリジナルの方を捨てたかいはあった』

「捨てただと……!?」
 ライムがあり得ない、と言うような表情をした。
「推測だが、体の弱かったティラだと血が絶つかもしれないと恐れたのだろうな……だから、ティラを母体としてコピー体を作って王族を続けさせるつもりだったんだろう」
 ぎりっとノックスが歯を食いしばる。
「その話を聞いた私とティートは、その時初めて私がティラのコピーだと言うのを知って、怒りを覚えた。 ティートは私より怒りが大きかった筈だ。 あいつは元々ティラのもので、私がコピーだと言うのは知らされずに居たからな」
 はぁ、とノックスは息をついた。
「それを知ってから二日後に、ティラはもう城にはいないという情報をつかんだティートから聞いた。ちょうど継承式の一週間前だ。 そこで私はある話を思い出した」
 ノックスは目の前に広がる花畑に目をやってから目を閉じた。
 
 ノヴァクリスタル…───
 未だ未知な所が多い、伝説とまで呼ばれるS級クリスタル。手にした者の願いを叶えるという噂がある…───


「なるほど。 だからお前らは…」
 ノックスは少しだけ微笑んで頷く。
「それがあれば、ティラを……バハートを元に戻せるかもしれないと思った。 バハートの国民は私じゃなくティラを愛している。 バハートを治めるのは私ではなくティラだ」
 ノックスの瞳に強い何かが感じられた。だが、何故か悲しみの色が多く混ざっている。
「…今から十年前の継承式の日に行方不明になったと言われたのは、ティラではなく私とティートだ。 私たちは名前を変えて、今までずっと王宮から隠れて生きてきた。 ノヴァを探し出すためにな」
 過去の話が終わったのか、ノックスは一度深く息を吐き出してこんなに喋ったのは初めてだ、と笑った。
「ティラ本人が生きて見つかって、ティートも嬉しいだろう」
「……」
ライムはそう言うノックスを見て目を細める。
「これで、コピーの私はお役御免だ」
「そうだろうな。姫が戻れば代わりは国にはいらない」
「あぁ。 ……それに、コピーなんて存在は本来あってはいけない」
 そんなノックスの言葉に、ライムは更に目を細めた。
 ライムの視線に気づいたノックスは、ライムを見つめ返した。
 やがて、ライムが小さく呟く。
「逃げるなよ」
「……!」
「あの緑バカロボットがどう思っていようが、お前はお前だ。 自分の心に素直に生きればいい」
 そう言ってライムはテーブルに肘をついて、それきり何も言わなくなった。
 ノックスはすっと再び空を見上げ、呟く。
「やっぱり、ライムの目は苦手だ……」
 ノックスはふっと笑った。
 ティラが見つかって王宮に戻ることになれば、当然ティートも王宮に戻るだろう。それを考える度にノックスの胸は痛んだ。
 何故──?
 何故、こんなにも……望んだのは、自分なのに。
 これでやっと、叶うのというのに───
「……バカ、だ」
 手で顔を覆って、ノックスは呟いた。やがて、ノックスはテーブルに顔を伏せ、眠りへと落ちていった。
 ノックスがすーすーと心地よさそうに寝息をたて始めた頃。
 ライムはちらりとノックスを見やってから、静かに、それでいてよく通る低い声音を響かせた。
「盗み聞きは感心しないな」
 声が響くと、背後で土を踏む音がした。肩越しに振り返れば、そこには僅かに眉を寄せたティートと、悲しみの色を浮かべたティラの姿があった。
 そして、ライムは驚きで目を見張った。ティラが、幼い子供の姿ではなく、ティートやノックスと同じくらいの背丈にまで成長を遂げていたのだ。
 ライムの驚きの眼差しは、すぐにいつもの冷たいものへ戻った。
「それが今の本当の姿という事か」
 二人に聞こえないような声量でライムは呟いた。
 そんなライムと、眠るノックスの近くへティートとティラは歩みを進めた。ティラは悲しみの表情のままノックスへ近寄る。
「まさか、私のコピーだなんて……」
「……」
 複雑そうに顔を歪めたティラを、ライムは探るような瞳で見つめていた。
 やはり、ノックスと似ている。いや、ノックスの方が似ているのか。
「重い荷を……私がいない間に、背負わせていたのですね……」
 ティラがゆっくりとノックスの髪に触れようとした手を、ティートが横から手を重ねて止めた。
「ティラ様……今夜はもうお眠りください」
 ティートが微笑むと、ティラの体から突然力が抜けてガクッと倒れ込んだ。
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那