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「Nova」Episode

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 その場に沈黙が訪れる。
 静けさにティートとノックスが顔を見合わせた頃、ファクロの尻尾がパキッと音を立てた。その音に二人が尻尾に目をやると、ファクロの尻尾がクリスタルのように結晶化しつつあった。
「……!?」
 それはゆっくりとファクロの全身に広がっていく。
「守護する者が死ぬときは、その体はクリスタルとなり、最期には砕け散る」
 呆然としていた二人に向かって、ライムが静かに言った。
「そう、なのか……」
 ノックスが複雑そうな色を浮かべて呟くと、ファクロが再び口を開く。
「リルファの子」
 そう呼び掛ければ、ライムは赤い瞳をファクロに向けた。その瞳の奥で、何かが揺れ動いている。
「貴様が……我の核を手にしたとして………何を望むのだ……?」
 そう問うファクロに向けていた目を静かに閉じ、ライムははっきりと言葉を紡いだ。
「あの惨劇を、二度と起こさせない」
「そう……か……」
 弱くなるファクロの声。結晶化はもう首周辺にまで広がっていた。
「……もうすぐ、だ」
「……」
「リルファの子……魂の色が薄くなって来ているぞ。 同じく、命の灯火も消えかけている……」
 そう言ったファクロの言葉を聞いたティートとノックスは、驚いて声を上げた。
「な、んだって……!?」
「どういう事だ! ライム!」
 二人の問いには答えず、ライムはただファクロを見つめていた。いつものように、無表情で冷たい瞳のまま。
 そうしていると、突然、ファクロの体が強い光を放った。思わず三人は目を閉じる。
 弱まった光にゆっくりと目を開くと、そこにはドラゴンの代わりに一人の女性が立っていた。
 艶やかな黒いセミロングの髪、白く透き通るような肌に、深く優しい深緑の瞳。
「……っ!」
 目を見開いたライムの喉奥から僅かな声が洩れた。驚きが浮かんでいたライムの顔は、次第に悲しみで歪められていく。
『──ライム』
「……ルナっ!!」
 声を上げてライムが女性に手を伸ばすと同時に、光は一気に集束し、光の粒子と共にクリスタルが砕け散った。
「っ……!」
 砕けたクリスタルの破片は蒸発していくように消え、やがて何もなかったかのように静けさが戻ってきた。
「ライム、大丈夫か……?」
「……ああ」
 呆然としていたライムにティートが声をかけると、我に返ったライムがいつも通りの声色で返事をする。
 はぁ、とため息をついたライムは片手で顔を覆い、ふっと自嘲染みた笑みを溢した。
 そんな時、ノヴァクリスタルに入っていた小さなヒビが大きな音を立て、クリスタル全体に広がった。
「!」
「ノヴァが……!」
 形を保てなくなったクリスタルは、音楽を奏でるような音を立て、崩れた。
 手を組んで眠っていたティラが同時に倒れてきたのを、ティートが真っ先に駆け寄って受け止める。ティラは目を閉じたまま動く事はなかったが、僅かに開いた口からは空気が流れ出していた。
 ティラの生を確認したティートは安堵に顔を歪ませ、深く息をついた。
「良かった……! ティラ様……」
 そのティートの様子を見たノックスは、胸が締め付けられたような痛みに手をきゅっと握りしめる。そして、軽く唇を噛んだ。
 ──何を、今さら。最初から全て知っているではないか。所詮私はコピーで、ティートは……───
「おい、少し見せろ」
 そう言ったライムの言葉で、ノックスは我に返った。
「ライム、何すんだ?」
 ティラを抱えながら、ティートは警戒するように敵意を込めた視線をライムに向ける。
「何もする気はない。ただ見るだけだ」
 暫くじっとライムの瞳を見つめていたティートは、やがてティラを床に静かに寝せた。
 そのティラに近寄ったライムはティラに手をかざし、分かったことに僅かに目を見開く。
「どうしたんだ?」
 ノックスもライムやティートに近づき、上から覗き込みながらライムに問うた。
 ライムは手を下ろしてから落ち着いて口を開く。
「ノヴァクリスタルのコアが心臓の役割をしている」
「!?」
 それはつまり、コアを取り出せばティラは死ぬという事。
 先程のファクロとライムの会話───
『……コアはどこだ』
 あのライムの言葉を聞いて分かるのは、ライムがノヴァクリスタルのコアを探していて、それを求めているということ。
「コアを取るのか?」
 ティートの目は鋭く光っていた。
 そんなティートをちらりと見てからライムは俯いて呟く。
「……コアは取らん」
「……!? 何でだ?」
「お前、言っていることとやっている事が矛盾しているぞ。 コアを取るなら俺を殺すような目をしているが? ……それとも、取った方がいいのか?」
「そ、そう言う事じゃねぇけど……!」
「ならばいいだろう」
 あくまで淡々と言ってみせるライムに、ティートは複雑そうな表情を浮かべてから笑顔をライムに向けた。
「……サンキュー」
「感謝されるような身に覚えはない」
「ったく、お前っていっつもツンツンだな」
「黙れ」
 笑うティートに眉を寄せたライムは、鋭い視線を投げつけた。
 そんな二人の様子にノックスは思わず頬を緩めた。
 その時。
「……うっ」
「ティラ……!?」
 ティートの腕の中で呻き、覚醒の気配を漂わせたティラにノックスが近寄る。ティラを見つめながらそわそわと様子を伺っていれば、やがて、ティラは薄く目を開いた。
 薄水色の瞳だった。
 ティラは暫くそのまま、呆然とした様子で、顔を覗き込んでいたノックスを見つめていたが、ふと小さく言葉を溢す。
「……だれ……?」
「!」
 当然の反応だった。ノックスの方がティラを知っていても、ティラの方がノックスを知っているはずがなかった。
 言葉を詰まらせたノックスの肩にティートが手を掛ける。
 ノックスが顔をあげてティートを見つめると、ティートは悲しそうな目でノックスを見つめ返す。
 ノックスから視線を外し、ティートはティラの顔を覗き込んだ。すると、ティラの目は僅かに見開かれ揺れ動いた。
「……あ、アサ」
「あまり喋らないでください。 お体に障ります」
 いつもの口調と違い、丁寧なティートの言葉はとても優しく柔らかい響きが感じられる。
 ティートの腕の中で、ティラは柔らかく笑んだ。
「感動の再会はいいか?」
「ライムっ……」
「別に今は何も聞きはしない。 それより、さっさとここを出るぞ」
「どうした?」
 立ち上がったノックスがライムに問うと、ライムは天井を見上げて眉を寄せ、呟く。
「…ここが崩れるかもしれない」
「はっ!?」
 ライムの言葉に目を見開いたティートは驚きに声を上げた。
 大声にティラがびくりとしたのに気付いて、ティートは「すみません」と謝ってから、ティラを横抱きに抱え、立ち上がる。
 その時、地が大きく揺れ動いた。
「……」
「こ、れは……?」
 嫌な予感にティートが顔をひきつらせる。
 どうやら、ライムの言った事が当たってしまったらしい。
 ゴゴゴ…と建物が小刻みに揺れているのを確認した三人は、ほぼ同時にその場から駆け出した。
「うわあああああっ!!」
 ティートを先頭に、ノックス、ライムと続き、ランプに照らされた長く細い階段を必死に駆け上がる。
作品名:「Nova」Episode 作家名:刹那