After Tragedy5~キュオネの祈り(中編)~
「ちょっと驚いた。思ったよりも寂しい場所で暮らしていたんだなって。ごめん。」
僕は謝るとキュオネはキョトンとした。それから、にっこりと笑った。
「ここは、お母さんと私が過ごした私にとって、大切な場所なんだよ。」
そう言うとキュオネは、牢屋にまた戻り、テーブルと言えるのか分からない石の台の上の埃を丁寧に落とした。
「デメテル、コップ取って貰ってもいい?」
デメテルは、僕の隣で申し訳なさそうな顔をしていたが、それを聞くと牢屋の外の脇にある棚からコップを取り出し、僕の前を通り、キュオネに渡した。キュオネは、それを受けとると、持ってきたハルジオンの花を挿した。辛うじて蝋燭で照らされた牢屋から見えるキュオネは、どんな表情をしているのか分からない。僕は、それが気になり、牢屋の中に入った。彼女の顔は、凄く穏やかだった。小さく華奢な手は、ハルジオンを優しく撫で、位置を整えた。それを見ていくうちに、僕は次第に落ち着いていくのを感じた。隣のデメテルにふと目を向けると彼女もそう感じているのか優しい顔でキュオネを見ている。
作品名:After Tragedy5~キュオネの祈り(中編)~ 作家名:未花月はるかぜ