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未花月はるかぜ
未花月はるかぜ
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After Tragedy5~キュオネの祈り(中編)~

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キュオネの祈り【中編】3


「本当にやってきたんだな。」
男の声がした。知らないうちに僕等以外にも、この階に誰かやって来たらしい。僕は聞き覚えのない声にビクッとすると鉄格子の外の階段の方を向いた。そこには、男が一人いた。彼は、気軽にこちらに近付くと牢屋の鉄格子に手をかけ、入ってきた。
「!」
言葉が出ない…。
彼は、僕のよく知っている彼女に似ていた。しかし、彼は間違いなく男で、しかも、悪そうな目付きをしている。

「うわっ。凄い顔してるな。俺のが驚くところだろ?青い髪のガキんちょがでかくなってるんだからさ。人間は本当に成長が早いのな。」
こちらを馬鹿にするような、そして気だるそうな顔で彼は僕を見た。

その顔でそんな事を言わないで欲しい…。

僕は理屈なしでそう思った。
そう、彼はレーニスに似ていた。
広い肩幅や性格の悪そうな表情を抜かせば、その顔はキュオネよりもレーニスにより近かった。

「カストル、何故ここにいるのですか…。」
デメテルは、僕とカストルと呼ばれる男の間に割り込むとカストルの肩に手を置き、彼を見上げた。震える声は、まるでいたずらがばれてしまって、怯えている子供の様だ。
「そう怯えるなよ。そこの青いのがあんたのテリトリーに住まうのに適任か見る準備が出来たって、俺は伝えに来ただけさ。」
カストルは、そういうと両手を上げ、参ったなというように顔を左右にふった。
「…まあ、未だにあいつの件は納得がいかないけどな。 あれだけ俺が長生き出来るようにサポートしてやっていたのにさ。 死なせちまって…。」
その言葉は、デメテルを尚いっそう追い込ませたように見える。 それを聞くとデメテルは小さく震えた。
「ふーん。これがキュオネか…。まじで人間なんだな。」
カストルのその言葉に驚き、彼の視線の先を見ると、キュオネは、いつの間にかテーブルから離れ、僕等の元にいた。デメテルの背中にそっと手を添えている。怒っているのか、警戒しているのか、いつもと雰囲気が違う。
「貴方、誰ですか?」
あまりにも落ち着いた彼女のその声に驚いた。キュオネは、まっすぐにカストルを見詰めていた。
「彼は…レーニスと同じ時刻に、同じ土地で生まれた風の精霊よ…。」
答えたのは、カストルという男ではなかった。
絞り出すような声の先…僕とキュオネはデメテルを見た。彼女は、何かを訴えるようにカストルを見つめている。
「そうそう。俺は、あんた達…人間でいうところのレーニスの双子の兄貴ってところさ。」
カストルは、肩に置かれていたデメテルの手を退けた。
「まあ、そう嫌なものを見るような目で俺を見るなよ。もう俺は用事があるから去るしな。」
嫌らしい笑いをすると、カストルは手を振りながら階段に戻り、視界から消えていった。

それを確認するとデメテルは、崩れた。
僕は、その光景を情けないことに、事態を掴むことが出来ず、ただ眺めていた。