After Tragedy5~キュオネの祈り(中編)~
「ねぇ、あの絵は?」
絶妙なタイミングでキュオネがデメテルの服の裾を引っ張る。僕は、少しだけキュオネの癖に気がつき始めた。
「ああ、あれね…。あれは、50年前に開いた宴の様子をピクトゥーラが描いたらものだね。最新のものじゃないかしら。」
振り返ったデメテルの顔は、少し寂しげだったが、キュオネを見ると目を細めて笑った。僕は、それを見ると何だか温かい気持ちになる。
そこに精霊服を着た中性的な背の高い女の人がデメテルに向かって走ってきた。レーニスは、例外的に女性的な背格好をしていたが、精霊は大体中性的な雰囲気を持っているものが殆んどだ。彼女等は、僕等を少し見た後に、デメテルの腕を引っ張ってエントランスの脇に連れていった。
僕とキュオネは、追いかけずにデメテルが戻るのを待った。
しばらくすると、精霊達は奥に入っていき、デメテルだけが僕等の元に帰ってきた。
「ユクスがキュオネの家に住むのに適切な人物か調べる準備がまだ出来ていないらしいわ。」
デメテルは、困った顔をして、腕を組んだ。
「準備がいるんですか…。」
「色々使うのよ。心の濁りが分かる瓶とか…。嘘を憑くと入れてた手が抜けなくなる壁穴とか。そういうのを用意したり、何人かの神様との面談もあるのよ。」
悲劇神話以降、神々と人間の間には相当な溝が出来てしまったらしい。レーニスが生きている時は、ここにも僕の居場所はあったのだけど…。今は、こうやって疑われてしまっている。僕は、少しだけ寂しくなった。
「じゃあ、私が住んでいた場所をユクスに紹介してもいい?」
キュオネは、手を胸の前でパチンと叩くと僕の方を向いて笑った。デメテルを見ると、デメテルは少し困った顔をしている。
「地下の牢屋のことだよね…。」
「うん!」
キュオネは、にっこり笑うと僕の手を引いた。
作品名:After Tragedy5~キュオネの祈り(中編)~ 作家名:未花月はるかぜ