Higher and Higher (前)
丸山Ⅱ
次の日。高千穂が学校を休んだというのは、高千穂と同じ一組の浦部から聞いた話だった。
一学期の委員決めのとき、それぞれのクラスでジャンケン合戦に負けた恵介と高千穂は、通年で保健委員をやっている。今日は、二人で保健室の掃除当番のはずだった。放課後に恵介がクラスに高千穂を呼びに行ったところ、休みだと知らされたのだ。
「もともと出席にまじめなやつじゃないし、どうせサボりだろ」
教室の扉にもたれかかりながら、浦部が言う。機嫌が悪いらしく、目をすがめて、じっと足元を睨んでいた。
肩にスポーツバッグをかけているので、今日も練習があるのだろう。グラウンドに向かおうとしているところを、引き止めてしまったらしい。イライラと足を踏みならし始めた浦部に、恵介は早口で質問をぶつけた。
「浦部は、高千穂の部活のこと、聞いたか?」
「総一郎から聞いたよ。顧問に辞めるって申し出たんだろ。そういや、前から言ってたよな」
「えっ。前から言ってたのか?」
「聞いたことないか? よくブツブツ言ってただろ」
「そうだっけ……」
記憶をたどってみるが、高千穂からそれらしい話をふられた覚えはない。だから昨日、総一郎から初めて聞いて、驚いたのだ。
「もういいか? そろそろ練習始まる」
「ああ、ごめん。ありがとな」
「別に、俺はなんにもしてねえよ」
浦部が苦笑した。ふと思い出したように鞄を開く。
「保健室行くなら、これ返しといてくれないか」
「わかった」
恵介は浦部からゴム製の氷嚢を受け取った。ぺしゃんこになっているから、中身はもう抜いてあるのだろう。
「頼む。じゃあ、掃除がんばれよ」
浦部はポンポンと恵介の肩を叩いて、廊下を走って行った。その小柄な背中を見送りながら、恵介は首をかく。
高千穂は、なぜ浦部には部活をやめることを言っておいて、自分には相談もしてくれなかったのか。総一郎にも、前から言っていたのだろうか。
中学が同じでつき合いが長いぶん、浦部よりは仲がいいと思っていたのだが、勝手な勘違いだったということか。恵介は、天井を仰ぐ。それはなんだか、おもしろくなかった。
作品名:Higher and Higher (前) 作家名:春田一