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これも愛あれも哀

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いつものように仕事を終えて
部屋に帰ると、あの日の…
遠い記憶のあの日の
髪の長いお兄ちゃんの彼女だった女が
すました顔で、赤いソファーに座っていた。

「どういうこと?」
「ちょっと外でようか」
「やだ、なに?」
「そんなに興奮してたらちゃんと話せないでしょ」
「意味わかなんない」

私は意味はわかっていた。
だけど、そのあとの女の言葉は
私を窮地に追い込んだ。

「赤ちゃんできたの」

「やだっ、なにそれっ、なにそれっ、わからないよ」

私は涙がとめどなく溢れたまま、大声で狂ったように叫んでいた。

「お兄ちゃん! どうするのっ!?」

お兄ちゃんは、大きな溜息をひとつ
ついたまま黙りこんで、目をつむったまま天井に顔を向けた。

お兄ちゃんが昔言ってた「自分の子供は欲しいよね」という言葉が
頭をよぎった。

お兄ちゃんが、私を捨て、その女とお腹の子供を選ぶことは
もうわかっていた。

私はお兄ちゃんに無理やり持たされたペティナイフを
バッグから取り出し、右手にしっかり握ったまま
お兄ちゃんの首に自分の左腕を回し、無理やりくちづけしたまま
お兄ちゃんの腹にナイフをぶっ刺した。

そんな殺し方ならドラマティックで、ソファーの女は
完全に、私に負けたと思うだろう。

お兄ちゃんが死にそびれないように
深く、深く。

お兄ちゃんが永遠に私だけのものになるように。
ひとりになりたくない。
私を愛してくれたのはお兄ちゃんだけだったんだ。



瞼を閉じても瞳に感じるぼんやりとした赤い光。
声が出ない、何も聞こえては来ない。
私は今、どこにいるのだろうか。

私は生きているのか
お兄ちゃんは死んだのか

答えはわからないけど
その日、私が死んだのは確かだった。


(これも愛 あれも哀 /了)














作品名:これも愛あれも哀 作家名:momo