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あの日のキミにごめんね

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「ふ、触れてもいい?」
「うん、これで最後だから」
克弥の指が、万里子の傷跡に触れた。化粧の所為もあるだろうが、ほとんど目立たなくなっている。克弥は、唇を当てた。
「いや、そんなことしたら駄目だよ」
「どうして?」
「かっちゃんのこと、忘れられなくなっちゃう」
「それって、僕のこと好きってこと?」
万里子は、俯き加減で下唇を噛んで、その言葉を出すことを躊躇っていた。
何処かの木であぶら蝉が、せわしく鳴き始めた。
「万里ちゃん、あ、えっと、こっちむいてくれる?」
万里子は、間近の克弥の顔を見上げていったが、なかなか目は合わせられなかった。

「僕を見て」

万里子は、克弥と目が合った。そして離れなくなるほど見つめた。

「万里子さん、あの日僕は言えなかった『毬をぶつけてごめんね』…ごめんなさい。ずっと言えずにいたのに 万里ちゃんはずっと僕をかばっていてくれて…ありがとう」
「克弥君……」
「こんな勇気もなく、卑怯なやつだけど、ずっと万里ちゃんが好きでした」
「克っ……」
「好きです。付き合ってください。……言えた。ずっと伝えたかった気持ち」
「わたしの気持ちは、聞いてはくれないの?」
「え?」
「わたし 克弥君が好きです。ずっとずっと忘れないって言ったでしょ」
「覚えてる」
万里子は、克弥に微笑んで「はい」と答えた。
「じゃあ、付き合ってくれる?の返事だよね」
「はい。でも、この傷のことは、もう言わないでね。わたしの大切な思いでだから、ね」
「これも含めて 万里ちゃんが好き。これでいい?」
万里子の頬に 克弥は唇を付けると、万里子は目を閉じた。
「はっ!かっちゃん。こんな校内の真ん中で恥ずかしいよ」
「そうだね。ごめんね」
ふたりは、笑い合って手を繋いだ。万里子の携帯電話が鳴った。
ファミレスで待たせた万里子の友人からだった。
「ごめーん。今行くから。それに紹介した人が居るの。連れてくね」
通話を終えた万里子は、克弥の手を取ると頬に当てた。
「もう、大丈夫。ずっと隠してきたけど、もう気にしないから。かっちゃん、ごめんね」
キャンパスを歩くふたりの後ろに 影が長く長く伸びていた。

     
     ― 了 ―
作品名:あの日のキミにごめんね 作家名:甜茶