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あの日のキミにごめんね

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偶然に起きたできごとだった。

紅葉した葉も散り始めた頃、学校帰りの通学路で 囃したてるように何かを呟きながら走っていく三人の男の子を追いかけて、克弥(かつや)も走っていた。
「ちくしょう」
聞こえるわけではない、克弥自身の気持ちのままを ただ声に出したという程度のものだった。しかし、その言葉は、克弥にとって何にもぶつけられないほど辛く感じたことへの苛立ちを含んでいた。日常的ないさかいの中の他愛もないことでも 精神的に未熟な子ども同士では、傷つき、気持ちの中に抱え切れなくなってしまうほど、膨らんでしまうことがある。

途中にある神社の前にさしかかった克弥は、神社の境内にある大きな栗の木から落ちて散らばっていた、毬(いが)に包まれた栗の実を拾うと、前を走る彼らに向かって投げつけた。
「痛い」
放物線を描くことなく投げられた毬は、彼らに届きはしなかった。
克弥自身も、ぶつけられるとは思いはしなかったが、気持ちの表れとしてそうしたのだろう。
克弥は、その声にはたっと、自分の掌を広げて見た。毬の針が一本、ひとさし指の付け根に刺さっていた。だが、その声は、克弥が発したものではなかった。
ほんの数メートル先の小路から出てきた女の子、同級生の万里子(まりこ)だった。
万里子は、顔の左側を手で押さえたまま、道に立ち尽くしていた。
「大丈夫?」
克弥は、それを言うだけで精一杯だった。
万里子の開いた右目が、その声のほうを見たものの、うな垂れ何も言わなかった。
克弥は、すでに走り去った三人の男の子を追いかけることを諦め、目の前で自分が投げた毬が当たった万里子にも近づけず、足取りは、ゆっくり後ろへと進んだ。
境内への入り口をはいり、奉納と掘られた石柱の柵を乗り越えて家へと帰った。

作品名:あの日のキミにごめんね 作家名:甜茶