ようこそボクの部屋へ…ダレ?
結構、面白いヤツらと出会えたな。
そんな夜のことだ。暗い部屋に明かりをつけた。
おい、今度はおまえか…。
ボクは、溜め息を飲み込み、目の前の状況を考える。
このままほかっておく。攻防を仕掛ける。もちろん攻めはボクのほうだ。
こいつは既に触角でボクの動きを察知している。左右の長い触角が、それぞれに揺れている。
ボクが、一歩踏み出しと、かさかさと数歩だけ、移動する。
まったく 小憎らしい動きだ。ダァーとでも逃げて行くなら可愛げもあるかもしれない。
ボクは、こいつの名前を知らないけれど、『ゴキブリ』という事だけはわかる。
全世界4000種といわれる中の50種ほどがこの同じ土地に住むという。
まったく、親戚の多いやつらだ。
家の害虫で有名なシロアリ以外のほとんどが親戚なのだから、何処で会っても可笑しくない。
おおおい、急に飛ぶな。少しばかりびびったじゃないか。
『ヘン。驚いたぁ? 今の顔ったらなかったぜ。そんなに珍しかないだろ。ほれ、ふつかほど前も洗面所で見かけたぜ』
とでも言っているかのように 壁際に沿って移動した。
此処の部分は、こいつのお得意の道だ。
スリッパや丸めた新聞紙も当たらない。壁ぴったりに置いたつもりのホイホイもなんのその、壁との隙間を擦り抜ける。
場合によっては、箱ハウスの上を堂々と通り過ぎてゆく。
ダンゴも 乾燥したりで 無視して通る。
腹についた細かな毛は、床の振動をすばやく感じとる。
そんな精密なメカニズムのくせに 変わないその容姿。誰もがひと目見ただけで「きゃぁ、ゴキブリ!」とわかる知名度はとても高い。
作品名:ようこそボクの部屋へ…ダレ? 作家名:甜茶