ようこそボクの部屋へ…ダレ?
腕を窓から引っ込めようとしたときだ。
部屋の外、建物の外壁に黄緑色の姿が張り付いているのが視野にはいった。
オブジェのようにじっと動かず見ている視線に ボクは、窓からやや体を乗り出し、首を伸ばしてそいつを見た。
『そろそろ、入っていいかい? 邪魔するよ』
とでも言っているかのように そいつはゆっくりと歩き出した。
いい! 来なくてもいい。来るならその物騒なものは置いてきてくれないか?
それ、何となく苦手なんだ…といっても無理だね。そいつは、もう窓枠から部屋へと 一歩入り込んでいた。
ボクは、そいつの名前を知らないけれど、『カマキリ』という事だけはわかる。
そのぷっくりとした腹に スリムな上半身。逆三角形の顔にでかい目。なんとも特徴的な鎌を両脚に装備している。
だが、カマキリは、窓枠付近でまた静止状態になった。
そのうち、外へと出て行ってくれるだろう。
ボクは、先ほどの買い物の帰り道に、近くで小さな畑をしているというご夫婦に採れた野菜を戴いた。
そのビニールの袋が、そのまま玄関に置いたままだった。
ボクは、カマキリをそのままに ビニール袋をほどいた。
みずみずしいその葉の影に ちょこんと乗っかって、もこもこぷにゅぷにゅした小さな体を動かしている。
ボクは、そいつの名前を知らないけれど、『イモムシ』という事だけはわかる。
たぶん蝶か蛾の幼虫なのだろうけれど、毛虫のように毒の毛をもたないヤツだ。少しくらいは触れてもいいだろう。
でもやっぱり感触のいいものではない。
おや? キャベツまで入ってる。ははは。葉っぱに穴が開いてるぞ。外の葉を捲ると小さなイモムシ。
モンシロチョウの幼虫の『アオムシ』のようだ。
ボクは、そのこを掌に乗せて眺めた。
『なあに? 畑でのんびりひなたぼっこしてたのに此処は何処なの? そんなに見ないでよ。どうしていいか困っちゃうわ』
とでも言っているかのように そのこは、頭なのかお尻なのか くねくねもぞもぞさせている。
迷い込んできたモンシロチョウの子どもかなぁ。お母さんは、白いのにキミは緑色なんだね。
それに『アオムシ』って呼ばれているし、芋の葉じゃなくて キャベツ食べてるのに『イモムシ』って適当な呼ばれ方だね。
ボクは、キャベツの葉をひと捲り千切ると そのこをそっと乗せてやった。
そのこは、コロンとキャベツの葉の上で丸まり、転がっていた。
作品名:ようこそボクの部屋へ…ダレ? 作家名:甜茶