ようこそボクの部屋へ…ダレ?
良かったぁ。カーテンを揺らし、窓からの陽射しを揺らめかせていたら 蜂は、さっさと窓から出て行った。
その後を追うように 蝶も窓に近づいた。
蜂を追っかけていくのかな? きっと叶わぬ想いだと思うよ。なんてね。
あ、本当に出て行っちゃった。まさかね。きっと菜の花に戻って行ったんだろう。
ボクは、半分だけカーテンを閉めた。
わあ、おまえ なんでそんなところにいるんだ。
『何だか 騒々しかったね。あ、ちょっと休んでいるだけ。おかまいなくー』
とでも言っているかのように カーテンに包まって、緑がかった青く艶々した羽の下から仕舞い忘れたように薄翅を覗かせている。
その体の光沢が金属のようなところからそんなふうに呼ばれるようになったの……かな。カナ。金。
ボクは、こいつの名前を知らないけれど、『カナブン』とかいうんだよね。
まだ幼かったボクでも こいつには触れることができた。
柔らかなボクの指先を がっちりとギザギザの足で捕まえてくるんだ。痛いけど、ボクを頼っている気がしたよ。
そして、ボクの指の先端まで よじ登ると、カシャンと薄翅を広げて震わせるんだ。
ボクに向かって『飛ぶよ。ほら、飛ぶよ』と期待させて、なかなか飛ばないんだよね。
たまに 指先におしっこなんてしてさ。まったく友情も糞まみれだったよな。
やっと、飛んだかと思ったら、床に カーテンに ボクの服に ちゃっかり下りるんだ。
そして、また繰り返し。でも、こいつがいてくれて、寂しくないときもあったな。気まぐれなおもちゃだったよ。
もう、外へおかえり。広い空を飛ぶ回るのもいい気分だよ。たぶん。
飛べないボクの分も、空から眺めて楽しんで来てくれないか。
ボクは、カナブンを 指先に乗せると、窓から腕を伸ばした。
あの頃のように、カシャンと薄翅を広げ震わせて、空へと飛んでいった。よし、一匹片付いたとボクは思った。
さてと、そろそろボクの部屋も静かに戻るかな。
作品名:ようこそボクの部屋へ…ダレ? 作家名:甜茶