エイユウの話~冬~
「アルディを凌駕するほどの魔力を持つ種だ」
アウリーもラジィも、言い返すことはできなかった。
苛立ちに任せて歩いていたキサカは、ロッカーの前にいた。あの、牢獄のある入口をふさぐように置かれたロッカーだ。封印は一度壊れているはずであり、動かすのはやはり容易かった。修理していないのかと呆れるのが普通だが、彼はふっと嘲笑する。
「やっぱりそうか」
扉を開けて、牢獄の階段を下っていく。真っ黒な階段を一段一段下りるたびに、足音が響き渡る音が大きくなる気がした。
やっとのことで、牢獄の並ぶ地下にたどり着いた。彼は迷わずキースのいる牢獄へ向かう。途中でふと、視線を横に向ける。そこはあの男の牢獄で、力なく繋がれている姿が見えた。ちょっとした安堵を抱き、彼は目的地を目指す。
モノトーンの世界は距離感がつかみにくい。真っ白な廊下や教室を見てもそうだが、そのあやふや感は、気持ち悪さを生みだした。進んでいるのに進んでいない気がして、不安も感じる。
しかしキサカは速度を緩めることもなく、しっかりとした姿勢で進んでいた。
キースの牢獄前に着くと、さっさと暗証番号を打ち込む。暗証番号は覚えていた。たった一回だったが、最高術師の地位まで上り詰めた彼は、本気になればそれくらい簡単だ。前回同様彼の体に紋様が移され、入ることが許可された。
リンゴをかじっていたキースは、いきなり入ってきたキサカに驚く。
「キサカ、どうしたの?」
「いや?元気かと思って」
ニッと笑うと、キースの目の前に彼は腰を下ろす。いつも通りと言われればそうなのだが、どうもすこし違和感がある。その手の感覚に聡いキースは、すぐにそれに気付いた。