エイユウの話~冬~
別々に行動しようとは言ったものの、アウリーが心配だったラジィは、結局待ち合わせをしていた。待ち合わせ場所は職員室。そのため、彼女は朝一番でそこに向かっているところだ。
歩いていると、向かい側から見慣れた顔が向かってくる。キサカだ。自分たちだって早すぎるかと懸念していたのに、彼がこんな朝早くから行動するとは思ってもいなかった。乱雑な足取りで向かってくるので、失敗して機嫌が悪いのだろうと解る。本来なら放っておくべきなのだろうが、今はそんなわけにはいかない。同じことを行っては無駄になるのだ。
何をしたのか聞こうと、ラジィは立ち止まって挨拶する。
「早いわね」
キサカは何も答えず、その隣を通り過ぎて行った。あまりにも失礼なその行為に、「ちょっと」と言って、ラジィは彼の腕をつかんだ。もちろん、彼の足を止めるための何気ない動作だ。
しかしその途端、ラジィの手は力の限り振り払われた。相手がラジィだったためか、彼は目を丸くする。しかし謝りもせずに、彼はその場を去っていった。
おかしい、とラジィは感じた。キサカを知っている者なら、皆が解るだろう。しかし、その原因の特定まではいかない。そこまで解りやすい男ではいてくれないのだ。
「・・・導師様に、気に食わないことでも言われたのね」
思い込ませるようにそう呟いた。友人にこんなことをされて、傷つかないほど彼女も図太くないのだ。しかも、彼女にとってはまだ、彼は好きな人であるのだから。
白い廊下の先へ向かう彼の足音に気を取られながら、ラジィは目的地へ急ぐ。