エイユウの話~冬~
「俺、そんなこと言ったっけか?」
「言ったわよ!なんであんた自身が覚えてないの?」
詰め寄って叱りつけると、キサカはしばらく考えるしぐさをしてから、強い思いを秘めた黄色の瞳を向ける。数秒とはいえ、まだ多少なりとも好意を抱くラジィにとって、こう見詰め合うのは結構恥ずかしかった。が、キサカの言葉に雰囲気は打ち壊れる。
「お前、俺の記憶力を過信してないか?」
自分ひとりがふんわりとした気分に浸っていたことが、ラジィにはとても悔しかった。そのため、思わず頭を引っ叩いてしまう。
「いってぇな!」
「授業に出ずにクェーディチェリの名前が出て来んだから、自分の発言くらい覚えなさいよ」
「ただの思い付きを一言一句覚えてられるか!」
アレだけ入り組んだ話が、全部思い付きだというのか。そうなると今度は本当に負けた気がして、とうとう諦めてしまった。そんな決断を下されてしまっていいのだろうかと、アウリーは少し疑問に思う。
しかし、ラジィの言いたいことは全員理解した。
敵陣筆頭と考えていた流の導師が、味方かもしれないという話だ。信じられない気持ちにあふれているのは事実だが、同様にキースの情報を流してくれたのも事実である。
灰色の空からは、一本だった光の梯子が何本もかかっていた。雲間が増えて、寒々しい水色の空も覗いてくる。枯葉もない大地に木枯らしが吹いて、抜けた芝生で遊んでいった。