エイユウの話~冬~
彼女たちが会場についたときには、すでに秋祭りの後夜祭は始まっていた。一番乗りでついたラジィは、踊りの輪に入らず、近くのベンチに座り込む。後から追ってきたキサカは、入り口付近で足を止めて、後ろを振り返った。足の遅いアウリーがもう人のはけた道を、とろとろと走ってくる。
彼女はキサカの前で止まると、ふらふらとおぼつかないまま尋ねた。
「あの、ラジィは・・・」
「ああ、奥。って、キースは?」
「なんか誰かに呼ばれてたみたいです。先に行ってくださいと」
へろへろの彼女がおかしくなって、つい意地悪をしたくなる。キサカは後夜祭で想い人たちと踊る同窓生たちのほうに顔を向けながら、思い出したような口ぶりで言う。
「あ、そういえば、キースの看板作りを熱心に手伝ってる子がいたっけ?」
もちろんあの男所帯の屋台作りの中に、花なんているわけがない。とはいえ屋台に女子が不参加というわけでもなく、キサカたちのところのような食品、お菓子系の屋台では、ひときわ女の子がいる率が高かった。それでもいなかったのだから、相当珍しい、一部例外的な店だったことがわかる。
しかし、そんなことをアウリーが知る由もない。彼女はさっと青ざめたあと、キサカの腕にしがみついて泣きそうな顔で問い詰める。
「それ、女の子ですか?」
自覚はなくとも好意を抱いている女の子にこんなことをされて、黙ってられる男は少ないだろう。しかしキサカのついた嘘は半ば事実でもあり、答えるのは簡単だった。