エイユウの話~冬~
「物にあたらない!」
「あたってねぇよ」
口答えしながら、キサカは自分の放ったシャウダーを再び手に持つ。しかし画面も見ずに、カバンの中に流れのままに突っ込んだ。
「あきらめたんですか?」
「腹立つけどな。キースが無視しているとは思えない」
その辺の信頼は確かだった。キースという少年は、とことん優しい男だ。他人を無視することなどせず、電話が鳴れば三コール目には大体出てくれる。充電し忘れなんて間抜けなこともなかった。音に敏感な体質のようで、寝ているときに電話をかけてしまっても、やっぱり五コール目には出てくれる。
そのため、彼が電話に出ないという事態は、ありえないということだった。
「シャウダーを持ち歩き忘れているのでは?」
「絶対にない」「冗談か?」
アウリーの推測に、二人が否定の言葉をぶつける。しおしおと落ち込む彼女をよそに、ラジィはキースと最後に会った日を振り返る。