エイユウの話~冬~
「黙れ!」
続きを推察したキサカがそう大声をあげると、
「ひゃあ!」とラジィがそれに驚いた。
彼女のその声で、キサカは我に返る。現実には男はピクリとも動いていなくて、死んだようにうつむいていた。それでもキサカの顔には冷や汗がだらだらと流れており、呼吸も明らかに早くなっている。
話を聞けばどうやらラジィが思い切って話しかけた直後だったらしい。おかげで彼女はひどく怒って、キサカもたっぷりと叱られた。
「『ねぇ』って言っただけで、なんで『黙れ』って言われなきゃいけないのよ!」
「だから悪いって言ってんだろ」
初めは誠意を持って謝っていたのだが、彼女があまりにもねちっこいので、キサカもさすがにそれを捨てた。結果、いつもの喧嘩が地下牢を出た今でも行われている。アウリーは保健室においてきた。あとで心の導師が迎えに来てくれるそうだ。
いつもなら導師が来るまで待っているのだが、今日はもう顔も合わせたくなくて、二人はさっさと保健室を後にした。保険医が不思議そうな顔で見てくるので、本当にピンチの課題があるとか何とか言って、逃げるように出てきたのだ。
止める人もいなく、延々と喧嘩を続けてしまった二人は、互いに肩で息をする。それでも睨み合いをやめない二人はもう賞賛に値するだろう。
まさに枯れ草色に染まった芝生で、沈黙が流れる。今日は風も無く、生徒も下校した学校は閑散として妙に静かだった。疲れた二人は芝生に座り込む。