エイユウの話~冬~
「憎いよなぁ、導師が」
マジックミラーには防音設備が完全に備わっており、中の音なんて聞こえるはずが無かった。さっきキースの牢に入ったキサカは、実を持ってそれを知っている。それでもその声は、確かに耳に届いていた。いや、頭に響いている、とでも言うべきかもしれない。
―――気のせいか。
今度こそ歩き出そうとしたとき、それは確実に答えてくる。
「気のせいじゃないさ」
驚いておもわずアウリーを落としかけた。ぎりぎり堪え、もう一度背負い直す。それから監獄に目を向けた。先ほどまで頭を垂れていた男が、しっかりとこっちを見ている。目が合った途端、動けなくなった。
男が、にやりと笑った気がする。
「お前、友を助けたいだろう?」
その言葉に、ぎくりとした。目的がばれたとか、そういうのではなく、相手に自分の心を言葉にしない部分まで探りを入れられたということだった。
「お前になら力を貸してやってもいいぞ?」
お前になら、という言葉が気にかかる。相手が自分を選んだのだとしても、その理由が解らない。強面ではあるが、犯罪者然としてるつもりはない。まあ、強面の自覚もないのだが。
「解らないのか。そうだろうなぁ・・・」
じゃらり、と鎖が動く。音はしないが、まさにそんな響きがしそうだった。ぐっと顔が近づけられたような錯覚に陥る。髪の毛の隙間から見える虚ろ右目と、ニッと笑った口元に印象が強かった。
「俺とお前は一緒だよ。同じゴ・・・」