エイユウの話~冬~
「ごめんね、ゆっくり出来なかったわよね」
小さな声で、ラジィが謝った。キースはふらりと立ち上がり、笑ってみせる。
「食べ物を持ってきてくれただけで充分だよ。導師からの食べ物は食べないようにって言われてたから、怖くて食べれなかったんだ」
だから、ここまで弱っていたのだ。確かにこの三人が持ってきてくれたものなら、まったく問題も無いだろう。準導師が持ってきてくれたものであれば、あるいは口にできたかもしれないが。彼はキサカの前まで歩を進める。唯一長さをもつ前髪が、いつもより多くゆれた。
「キサカもありがとうね」
「いや」としか彼は言えなかった。実際アウリーがいなければ、彼女が捨てなければここに来ることも出来なかった。無力だった自分を、惨めに感じているのだ。結局ただ口が達者なだけなのだと。
その感情がわかったから、キースはそれ以上何も言うことが出来なかった。彼は、キサカの背中で眠りこけているアウリーの髪を、一度だけ優しく梳いた。ラジィと違い癖の無い彼女の髪は、いとも簡単に彼の指の間を抜け落ちる。
「ごめんね、アウリー」
とても悲しそうな声だった。自己犠牲的な彼は、他人が傷つくことがこの上なく苦手である。だから苦しかったのだろうと、ラジィとキサカはすぐに察した。