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エイユウの話~冬~

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「キースへの恋心を捨てるのが条件だったのね?」
 途端に、アウリーの大きな目から、ボロボロと涙が零れだした。声こそ上げないものの、拭いても拭いてもその大粒の涙が零れ出てくる。
 導師の娘ともあろう者が、金糸を好きになるなんて、あってはならない話だった。だから、キサカもあの時脅しに使ったし、アウリーもそれを武器にした。しかし、それを逆手に取られた。キースへの面会のときにアウリーが導師と約束したこと。それは、キースへの思いを断ち切ることだったのだ。彼女は親が決めた相手、ないしは親が認めた相手と結婚し、導師の血を受け継ぐものとして生きていくこと。金色の不穏分子などもってのほか。友人関係さえきっと父親にとっては快くないものだろう。
 だから、キースは「ありがとう」と言ったのだ。あれは、自分を好きになってくれたことへの感謝ではなく、今の自分を助けるために、大切なものを捨てたことへの感謝だったのである。
 その事実にキサカは呆気に取られた。同時に果てしない怒りを抱く。キースを監禁して、アウリーを振り回して、なんと自分勝手な存在なのだろうと。もともと期待などしていなかったが、それでも少しは見直したと言うのに。

 それから一時間、アウリーは泣き続けた。涙はずっと止まらなくて、ラジィがずっと抱きしめていた。キサカはかける言葉も見つけられず、キースも食べかけのリンゴをただ持っていた。
 泣き疲れて眠ってしまったアウリーを背負うと、キサカは立ち上がった。続いてラジィも腰を上げる。面会終了時間になってしまったのだ。何が何だろうと約束を守らなければ、二度と面会は出来なくなってしまう。
作品名:エイユウの話~冬~ 作家名:神田 諷