エイユウの話~冬~
「キース君」
呼びかけられたキースだけでなく、三人の視線がアウリーに注がれた。彼が目覚めてから、まだ一度も彼女が言葉を発していなかったということに、遅れながらみんなが気付く。けれども同時に、柔らかなこの雰囲気に取り込まれないようにふるまっているとも見えた。彼女は顔色一つ変えていなかったのだ。その畏まった表情に負けない無愛想な口調で、言葉が紡ぎだされる。
「私、キース君のことが好きでした」
沈黙が走った。ラジィとキサカは思わず視線をそらし、キースとアウリーだけが見つめあう形になる。目を丸くして驚いていたキースだったが、ふっと笑った。金色の髪が、さらりと動く。彼女を真正面からとらえて、彼は確認を入れた。
「過去形だね?」
「うん。過去形なの」
ラジィもキサカも気付いていなかった。二人がアウリーに視線を戻すと、彼女はこれ以上ないような柔らかい表情で、その言葉を肯定している。優しいのに、とても悲しそうで堪らない雰囲気。それはまるで感情すら凍ったようだ。
真っ白な牢獄で、キースはもう一度真っ赤なリンゴをかじった。彼が発言するまで、二人とも彼女に尋ねることもできず、ゆっくりと時間が流れる。口が空になったキースが、座り直した。「ありがとう」
彼が言ったのは、それだけだった。
途端に時間が流れ出し、ラジィとキサカがアウリーに詰め寄る。