エイユウの話~冬~
「『久しぶりだね』、じゃないわよ、この馬鹿!」
「あ、ちょっと今大声は・・・」
「やめてとか言うんじゃないわよ。あんたがあたしたちにそれだけ心配かけたんだから!」
目に涙を浮かべて、ふるふると体を震わせる。握られたこぶしは凄く硬そうで、そんなに心配してくれた彼女が、キースはなんとも愛おしく感じた。「仲間」思いなのだとわかっていても、嬉しいものは嬉しいのだ。
電気という人工的な明かりのもと、キサカは座り込んだ。持ってきたりんごをキースに向かって投げる。しかしキャッチすることは出来ず、彼の膝にぶつかってころころと転がった。
「あ、ごめん」
何故か、彼が謝った。食べ物を投げたキサカが悪いのは一目瞭然なのに、受け取れなかった彼が謝る必要はないはずだ。
ラジィはキサカを叱りながら、リンゴをキースに渡す。彼は嬉しそうに、それを受け取った。かじりつけというキサカの言葉に従って、皮も剥かずに彼はそれをほおばる。いつもはきちんと向いていたので、相当腹が減っているのだろう。
「やっぱりおいしいね」
ふにゃっと彼は笑った。ついラジィとキサカの表情も崩れる。さっきまで沈黙したまま、彼らを押しつぶそうとしていた白い壁が、優しく包み込んでくれているような雰囲気に変わった。