エイユウの話~冬~
淡々と説明したアウリーを、二人はじっと見た。いつもの彼女ならきっともっと怖がるはずだ。あまりにも淡白すぎて、彼女が彼女ではないような錯覚さえした。
ふと、キサカに既視感が生まれる。彼はこんな彼女を見たことがあった。異常なほどに気丈な態度。アレは夏休み、ラジィをキースが追っていったときだ。あの時も、同じように淡白で、気丈に振舞っていた気がする。それにさっき、父親がキース幽閉の主犯だと聞いた時もだ。人が変わったように、はきはきと動きだしていた。
その瞬間、キサカの中で何かが浮かび上がる。まさか。
「アウ・・・」
「あ、キース君!」
キサカが呼びかける前に、アウリーはキースのいる監獄の前に駆け寄った。外側からマジックミラーを触ると感電する仕組みになっており、それを覚えていたアウリーは慌てて思い出して足を止める。少し離れた位置から嬉しそうに、愛おしそうに中を覗く彼女からは、先ほどのはきはきとした違和感はなくなっており、ただの無邪気な少女へと戻っていた。
彼女の明るい声に、ラジィとキサカもつい足を速める。走っていくと、ガラス越しに眠っているキースの姿が見えた。ただ眠っているというより、ひどく疲れているように感じる。特例なのか、魔法が使えないという空間に、クルガルの姿があった。導師たちにも罪悪感は存在するらしい。まだ彼らも人間だったかと、キサカは学校のある天井を仰ぐ。
アウリーは近くにあるモニターに立ち、父から教えてもらった暗証番号を入力した。が、ブーと警告音がなる。三回警告音が鳴れば、防犯センサーが作動する。ここにある防犯センサーにはレーザービームが搭載されており、つまり防犯センサーの作動は死を意味する。
その説明を事前に聞いていたラジィとキサカは慌てた。揃ってアウリーに叫ぶ。
「おまっ・・・!なにしてんだ!」
「落ち着いて。落ち着いてよ、アウリー」
大きく息を吸うと、もう一度暗証番号を入力した。警告音が鳴り響く。こうなってはさすがに任せられまい。キサカはりんごを置いてアウリーの元に行くと、パッとそのメモ帳を奪い取った。
「もういい、俺がやるから下がっとけ」
アウリーは謝ってから、そろそろと後ろに下がった。失敗の許されない状況に追い込まれたキサカは、冷静にモニターとキースを見る。と、そこで気付いた。