エイユウの話~冬~
「じゃあ、今まで俺らの見てきたキースが偽者ってことか?」
明後日なことを言われたラジィは、まぶたのラインを平らにした。正気かと疑うようなまなざしだ。そんな顔を向けられたって、キサカだって仕様もない。
「二重人格論とか、いまさら持ち上げないでよ」
それにそういわれたのはラジィだけだ。もし占いが本当なら、ラジィ以外の人は騙されたり、裏切られることはないだろう。
うなる二人の下に、明るい声がかかった。
「ラジィー、キサカくーん!許可下りたよ!」
視線の先で嬉しそうに手を振っているのは、一人説得にあたっていたアウリーだ。彼女は人の往来がないのを見ると、廊下を横切って中庭にかけてくる。鈍足な彼女は、霜が解けてぬかるんだ地面に足を取られながら、もたもたと二人の下にたどり着いた。
短距離とも呼べない距離を、充分に時間をかけてきたにもかかわらず、彼女の息は荒い。ハアハアと落ち着かない彼女に、キサカが目を丸くして尋ねた。
「どうやって説得したんだ?」
すると彼女の息が一度止まり、勢いよく顔を上げた。それから大きく息を吸って、ふーっと吐く。突然の行為に戸惑う二人に、彼女はにこりと笑いかけた。今の状態と彼女に似つかわしくない、晴れ晴れとして嬉しそうな顔で。
「秘密です!キース君にも聞かれるでしょうし、そのとき教えますよ」
彼女の様子がおかしいことに気付きながらも、今は聞いてはいけない気がして、二人は素直に彼女に従った。